第三話――魔人と死神と皇国の聖女-35
そんな問答の間に、大魔術を放った余波から回復したパスクが杖を向けたまま『死神』へと近づいていく。
見ると、さきほどまで『死神』の身体を覆っていた紺色の上下は『黒雷』によって、その大部分を吹き飛ばされていた。
それでも、なにかしらの魔法で防御したのだろう、柄の先から折れた杖を握る『死神』。
目を凝らすと、白い肌がチラリと見えた。緩い風に、藍色の短髪が揺れる。
――やはり、女性だった。
アリスは、どこか悔しさを覚えた。
自分は剣士だ。魔術などは使えない。
それでも、パスクと同じ場所に立つことのできる彼の女性が羨ましく思った。
『死神』の、ほんの数歩の距離まで歩み寄ったパスクが、小さく頭を動かした。
なにか、話しかけているようだ。
「……なにを、話しているのだ?」
「まっ、大体の予想はつくわね。けど、あまり他人には聞かせたくはない内容よ?」
「他人には?――まさかっ」
「コラコラ、この色ボケ聖騎士。安心しなさいよ、パスクはアンタだけにゾッコンなんだなから。今も、昔も、これからもね?」
「ぅ…………」
アリスは、自身の頬が火照ったのを感じた。
パンの呆れたように言ったセリフに、ハーティが視線を上げてきたのである。その瞳は、歳相応の好奇心に彩られていた。
「――ベルゼル・アイントベルグ導師……リーズロッテ導師……遺跡、仮面…………儀式?……記されていない、失われた……導師の死?皇帝の――」
「っ?」
唐突に一角獣、ルードヴィーグが、支離滅裂な、単語の羅列を口にした。
疑問符を浮かべるアリスとハーティだったが、パンだけは尻尾をピンと立て伸ばした。
人間で言うところの『目をむいて驚く』といった所作に近い、とアリスは判断する。