第三話――魔人と死神と皇国の聖女-33
その時だ、
「――あんたたち!耳を塞ぎなさいっ!」
「っ――」
パンが突然、叫んできた。
アリスはわけもわからず、だが、その言葉には説得力を覚えたために両手の平で耳を覆う。
視界の端では、ハーティも、健気にその小さな手で己の鼓膜を守っていた。
――パンの警告から、時間にして二、三秒。
『聖獣』リンクスの意図を測ろうと、アリスが口を開きかけた瞬間――、
「っ?」
「ひゃぅっ……」
まるで、耳元で千羽の鶏が同時に朝を報せてきたかのような轟音が鼓膜を、脳を揺さぶった。
どう考えても雷鳴である。しかし、稲光は起きない。
――そう、パスクの『黒雷』だ。
アリスは、キーンッ、という耳鳴りに眉根へシワを寄せながらも、心中で分析した。
耳元から手を離すと、先ほどよりも一層の静けさが聴覚を、逆に刺激する。
「なっ……」
なんだったんだ、一体――そう訊ねようとして、その一文字目を口に出したときには、アリスはそれが愚問だと気づいた。
両の足で立ち、杖の先を『死神』へ向けるパスク。
初めから何もなかったかのように、土っ原と化した芝生の上に膝を着く人影。