第三話――魔人と死神と皇国の聖女-31
「パン?どうしたのだ?」
「アリス、あんたねぇ……言ったでしょ?パスクの邪魔にならないようにって。これ以上、接近すればパスクの攻撃に支障をきたすわよ?魔法ってもんは威力を抑えるのが、なによりも困難だかんね」
「この、距離が――パスクの間合い、なのか?」
「んま、そゆこと」
「しかし、私は、まあ、いいのだが……」
アリスは、目前に座るハーティへと視線を落とす。
この『聖女』は、パスクの戦う姿を見に、こんな危険な場所に来たのだ。
しかし、ハーティはこちらの意図を察したのだろう、フルフルと首を振った。
「いえ、私も……この距離で大丈夫です。ありがとうございます」
「そうか」
まず、ルードの背からはアリスが降りた。続いて、ハーティに手を貸してやる。
ピンク色のスカートをはためかせ、ハーティは地へと足を下ろした。
もう一度、礼を言うと『ユニコーンの聖女』が周囲を見回し、そっと口を開く。
「すごい、ですね……」
「……、ええ。私も、パスクの力には驚らかされてばかりです」
辺りは、おそらく野原かなにかだったのだろう。水音もかすかにするし、噴水でもあるのかもしれない。
だが、青々とした芝生は、まるでオーガーが行進したかのようにめくれ上がり、近場だけでも二十本以上の木々が半ばから倒れていた。
これが、たった一組の争いの結果だとは、信じ難い事実である。
アリスは――男性の目がないのをいいことに――、スカートをめくり、太股に密着するように吊るしていた短剣を引き抜いた。
神経を、まるで裁縫糸を針の穴に通すときのように張りつめさせながらパスクへと目を向ける。