第三話――魔人と死神と皇国の聖女-30
「……パ、パン?」
「なにを不思議そうな顔をしてんのよ、アリス。私の知覚を使えば、パスクまで一直線よ?危険もないでしょうしね」
「手を貸してくれるのか?……助かる。では、行こう!」
アリスは、ハーティをうながした。少女は、その腰の下の一角獣をそっと撫でた。
すると、ルードが一鳴き、バルコニーへと向かって駆け出した。
やはり、『聖獣』は地力が違う。アリスは、通常の騎馬とは比べ物にならないほどの加速をその身に感じた。
ふと、振り返ると、エレナが満面の笑顔で手を振っている。
出陣する自分を見送るためであって、ケネスがすぐ隣にいるからではないこと願うばかりだ。
夜闇のカーテンに包まれた、手入の行届いた庭園をふたりの娘と、一匹の紅山猫を乗せた一角獣が駆ける。
右往左往とする衛兵たちを傍目に、その足には一分の逡巡もない。
真っ直ぐに、不定期に閃光が唸る一角へと向かっていった。
その閃光の下で、『魔人』と『死神』が戦っているのだろう。
さすがは強国ゴルドキウスで名を馳せる魔導師たちである、戦闘中の移動速度が速い。もし、ルードの背に乗っていなければ、すぐに見失ってしまっていたはずだ。
だが、速いといっても所詮は人間、一角獣の足には負ける。
「……見えたっ」
パンの、そんな声が聞こえた。
視線の先では、闇を切り裂き、雷鳴と閃光が交錯している。
未だ豆粒程度の大きさの人影でしかないが、それでも、パスクの白ローブは闇に浮いていた。
「――っ!ルード!停まりな!」
パンが叫び、ルードが土を煙らせて減速する。
まだ、戦闘の渦中とでは三十歩は距離があった。