第三話――魔人と死神と皇国の聖女-3
――他にも問題はある。
『聖人』云々で言うならばリンクス、ペガスス、ユニコーン、サラマンドラの国には『聖人』または『聖女』が所属している。しかし、残りのドラゴン、グリフォン、フェニックス、フェンリルの国々には『聖人』も『聖女』もいないのだ。
それが、それぞれ自尊心となり、抑圧となり軍議の場に支障をきたしていた。
リンクス王国、すなわちエレナ王女にしてもパスクという『聖人』の存在がなければただのリンクス国領内に攻め入る大義名分、傀儡と化していただろう。
――それほどまでに聖獣八ヶ国に民が『聖人』『聖獣』に依存している部分が大きいのだ。
もし、仮にだがこの状態でゴルドキウス帝国と争ったとしたら、アリスには勝てると到底思うことができなかった。
そんなことを憂いている時だ、エレナ王女に配された私室の戸がノックされる。
コンコンッ、コンコンッと二連続を二度だ。役人ならば一度で済ませる。
アリスは嬉しい予感にあわてて振り向いた。
「――パスクです。よろしいですか?」
「どうぞ、鍵は開いてますよ」
エレナが間髪いれずに返事をした。
樫の扉が、ゆっくりと開かれる。
最初に姿を現したのはパスクだ。アリスは無意識の安堵と喜びのあまり肩が脱力したのを自覚する。
続いて、彼の足元からパンが、そしてジーン、パトリシア、ゲルハルトの元『早波』小隊の面々が軒を潜ってきた。
最後に入室したペガスス王国第一王女『白の姫』フィル・R・ペガススだ。
この幼さの残るものの、そこすらもまた一つの美となっている少女、フィル姫もパスクと同じく『聖人』――『聖女』である。『ペガススの聖女』だ。
ペガスス王国が軍議の場で圧倒的な優位性と発言権を誇示しているのは王族で『聖人』『聖女』を輩出しているのは彼の国だけだからだ。
エレナとも交友関係があることもあり、アリスもなにかと話す機会が多いのだが、若いながらしっかりとした考え方をするなかなかの人物である。あえて欠点を上げるのならば、すこし貴族主義に走りすぎる気があるところだろうか?