第三話――魔人と死神と皇国の聖女-29
「あ、の……アリス、さんは、パスクさんの下の向かう、のですか?」
「そのつもりです」
「――わ、私も連れてってくださいっ!」
「っ?」
アリスは、驚いて、その両目を見開いた。
ハーティの、これほどまでに大きな声を聞いたからではない。彼女が、戦場に自ら向かうようなタイプだとは思えなかったのだ。
しかし、ハーティは、真っ直ぐな眼差しで続けた。
「私、一応――『聖女』なんです!ユニコーン皇国を、この聖獣八ヶ国を導かなければならないんですっ!…………そりゃ、私のような、その、小娘で、商家の出などでは、頼りないかもしれませんけど……、それでもっ――パスクさんの、背中を追えば……」
アリスは、まじまじと少女を見つめた。
やはり、『聖女』だ。強いな、この娘も――。それが、アリスの率直な感想だった。
極力、相手の緊張を和らげるように、優しく微笑む。
「いいえ。ハーティ様も、『聖女』です。皆、頼りにしていますよ」
アリスの言葉に、ハーティの顔が輝いた。
さすがは『人心解読』の能力を持つという『ユニコーン』の『聖女』だ、こちらが世辞ではなく、本心で言っていることを察せられたようだ。
「ではっ……お、お願いできますか?」
「はい。きっと、ハーティ様が戦場に赴くのは、パスクの目論見とは違うのでしょうが、それでも、行きましょう。後で、一緒に叱られましょう」
「はいっ!」
アリスは、ハーティに導かれるままに、ルードの背へと跨る。
『聖獣』の背などに跨るなど、不遜極まりないのだろうが、ハーティを連れ立つにはコレしか方法はなかった。
『ユニコーンの聖女』へ手を貸し、従獣の背へと乗せてやる。
すると、『聖獣』リンクス――パンが、見事な跳躍力を見せて、アリスの前に跨ったハーティの、さらにその前に飛び乗ってきた。