第三話――魔人と死神と皇国の聖女-28
「では、我々も隊長に続きますかな?特に、アリスさんは心配でしょう?」
そんなセザールは、四十過ぎだという実年齢に妥当な声でそう言うと、ニッと笑った。前歯の一本欠けた、黄色い歯だが、チャーミングな笑みではある。
パスクとの仲を揶揄されたアリスは、赤面した。
「か、からかわないでくださいっ!」
「はっはっ!若さとは、素晴らしい――ですな」
紺色のジャケットの銀ボタンを外し、前を開けると、セザールは高笑い混じりに駆けだした。
その先を見ると、会場の出入り口ではない。すでに、通常の出入り口は出る者、入る者と往々といった様相で、およそ、通過できる状態ではなかったのだ。
セザールはバルコニーへと出ると、その縁を颯爽と乗り越え、夜闇の中へと消えていった。
「……、……っ」
アリスは迷っていた。
いや、パスクの下に駆けつけたいのは山々だが、彼の足手まといにはなりたくない。なにせ、いま、自分はドレス姿なのだ。武器だって、短剣を一般、太股にフレアースカートの下に吊るしているだけだ。
込み合う出入り口を見て、セザールの出て行ったバルコニーを見て、もう一度、出入り口を見る。
――再び、雷鳴が轟いた。
次に夜の帳が、一瞬だけ閃光に包まれ、昼間のように庭園を照らし出す。
……戦っているのだ。
アリスの胸中に、焦燥だけが募る。
そんな時だ、ドレスの裾がチョンチョンと引っ張られた。
「……?」
その方向を向いてみたが、誰もいない。
いぶかしみつつも、アリスは視線をすこし下げてみた。
「っ!どうしました、ハーティ様?」
すると、桃色のドレスの少女が、スカートの裾を引っ張っていた。
アリスは――パスクがしたように――中腰になって、視線を合わせると問うてみる。