第三話――魔人と死神と皇国の聖女-27
「――それで、我らはどうしろと仰っていたかな?『魔人』殿は?」
マデリーンが、ケネスを試すように睨んだ。
苦手意識でもあるのだろうか、ケネスは半歩たじろぐと、両掌をマデリーンへと向け、愛想笑いを浮かべた。
「なんと、棘のある言葉でしょう……。いえいえ、んなに睨まれても困りますって。別に俺ゃ、パスクには集めて事情を説明しろとしか言われてねぇんですから」
「ならば、集まり、事情も知った我らは、好きに動いて構わないんだな?そうだな?んんっ?」
「それは、どうでしょうかね?そうすっと、集めた意味がないっつーか……」
「カカカッ、これはこれは――」
マデリーンが、腰に履いたサーベルを引き抜いた。いつもの、手馴れた槍ではないが、それでも相当な俊敏さを内容している。
一瞬の銀の煌めきの後、首元に切っ先を向けられたケネス(外見は、可愛らしい侍女)は、額に汗を浮かべ、ただただ、引きつった笑みを浮かべるしかない。
マデリーンは、男前な笑顔で続けた。
「是か非で答えろ。なあ、女装癖?」
「ヤな渾名だな、ホント。へえへえ、お好きにどうぞッ!……知らねぇかんな、俺は」
「結構な返事だ。よし、貴様ら!隣同士、二班に別れろ!アリス、セザール!おまえらは、各自で動けッ」
周囲は、先の雷鳴に騒然となっている。
フェニックスの王族たちなど、パスクが反旗を翻したとでも思っているのか、見るに耐えない怯えようだ。
その間にも、エレナ親衛隊は二十人超の二班に分かれ、一班は主君らの護衛、もう一班――主に動きやすいジャケット姿の男性陣はマデリーンの指揮の下、会場を駆けだしていった。
アリスは、隣に立つセザールと視線で会話する。
セザールは親衛隊中、アリスとマデリーンを覗けば唯一の『聖騎士』の称号を持つ騎士だ。浅黄色の頭髪を撫でつけた、大柄な壮年の騎士で、鼻の下に生やした髭が貫禄を醸しだしていた。
そもそも、来歴で『聖騎士』になった自分や、王女の親衛隊ということで隊長も同性のほうがよいと『親衛隊長』になったマデリーンとは違い、完全な実力で『聖騎士』で『親衛隊顧問騎士』の地位を手に入れたセザールは、存外、この騎士団最高の使い手といっても過言ではない存在だ。マデリーンも、彼だけには遠慮する部分がある――それほどである。