第三話――魔人と死神と皇国の聖女-25
「幾つかの理由がありますよ、王女。まず、今回の作戦を説明しましょうかね?パスクが一目のない暗がりへと向かいます。臨機応変が『魔人』の隊ではモットーだったんで、どこかは知りゃしませんが、んまあ、この宮廷のどっかでしょう。んで、追ってきた『死神』を捕縛――以上です」
「い、以上って……」
アリスは閉口した。
見ると周囲の皆も、似た面持ちである。
「それは、作戦と呼べるのか?パスクに、おんぶにだっこではないか!」
「アリス……。あんたも知ってんだろ?だから、パスクは『魔人』なんだよ。こりゃ、別に敵方が名付けたわけじゃない。味方が、畏敬の念を込めて付けられた字なんだ」
「ぅっ……だがっ、――うむ……」
アリスは、続く言葉を紡ぐことはできなかった。
パスクが肩をすくめてきた。
「わかるさ、俺も。毎度毎度、特攻だの、殿だの――そんなんばっかだ。けどよ、心配するだけ無駄だ。あの男は、そういう指揮しか取れネェのさ。そして、今回は囮になってんだが、その過程で、ただでさえ計画性のない計画に不安要素を入れたくない……そういうわけで、集ってもらった」
「不安要素、だと?」
藍色のジャケットの襟元を握ったマデリーンが――親衛隊の女騎士の中では唯一、男装して出席しているのだ――、ジロリとケネスを睨んだ。
もしかしたら、自分たちに戦力外の判定を下されたと思ったのかもしれない。
さすがのケネスも『丹色の銀星』の眼光には、その、おちゃらけた態度を畏まらせざるえなかったようだ。
「いっ、いや?誤解しないでくれよ!まさか、名高き親衛隊長さまを侮ったわけではないんですって!それでも、腹立つならゲルハルトのガキをボコッてくれ?な?なっ?」
「ふむ……そうすることにしよう」
「ふぅ、あっぶね」