第三話――魔人と死神と皇国の聖女-24
「……では、私がおびき寄せるので――ケネス、後のことは任せましたよ?」
「へぇへぇ」
「ああ、後……アリスさんもできればエレナ王女の身辺警護を強めるよう手を打っておいてください。できれば、ハーティも。他の出席者は……まあ、自身でどうにかしてもらいましょうか?あんまり騒いでも、ねェ?」
パスクが、チロリとその赤い舌で、色の薄い唇を舐めた。
「――はんっ!私の知覚網をかいくぐるとはね。やってくれんじゃないの」
「パン。それは、きみがイワシの油漬けなんかに夢中になっていたから、警戒がお粗末になったんじゃないのかい――と、本来ならば問い質すのがいいんだろうけど、俺は最近、空気を読むという高等な技を習得したからね。安心するといい」
「ルード!その口、一生閉じてなさいよ!それと、空気読むなんて無駄な努力はやめなさいって!」
そんな獣たちの問答を耳にしながら、アリスはエレナの周囲に集った面々に視線を配る。
まず、エレナ。そして、その親衛隊長であるマデリーン及び親衛隊員。
加えて、なぜかパスクの指名にあがった『ユニコーンの聖女』ハーティとその従獣である『聖獣』ユニコーンのルードである。
パンは呼ぶまでもなく、向こうからやってきていた。
そんな一堂の中で一際浮いている侍女の変装をした伝法口調の男――ケネスが、『聖獣』たちの言い争いに一段落したのを見てとると喋りだす。
「パスク、以下、『早波』小隊三名は、それぞれの持ち場についている。『死神』を捕らえるためにな」
「あの、それで……私たちは、なぜ、集められたのでしょう?」
ケネスへと、エレナが首を小さく傾げた。
――その姿が、どことなく友好的な雰囲気であることをアリスは察した。これでも、幼少頃からの側付きである。
アリスは嫌な予感を覚え、一応、ケネスを睨んでおいた。
しかし、女装メイドは――こちらの眼差しには気付いているだろうに――飄々と続ける。