第三話――魔人と死神と皇国の聖女-23
「あのね、俺も男だぞ?それでも女に化けれる。ってことは、女が男にもなれんのさ。つーか、そっちのほうが簡単だし」
「ですが、そろそろ始まって一時間は経ちます。ケネスにしては時間をかけましたね?」
「あんたに酒を飲んで、アリスとイチャコラさせるためだ、って言ったらどうする?」
「感謝します」
「くははっ!いや、悪い、うそだ。本当はエレナ姫がな、ことあるごとに絡んできてしまって。素直に謝るよ」
「いえいえ。それよりも、彼女の狙いは誰だと思いますか?ここには候補が多すぎますからね」
「…………俺の勘だと、アンタ、かな?または、聖獣八ヶ国の盟主であるユニコーンの『聖女』様か、一騎当千の傭兵部隊『竜人の尾』隊長にして『サラマンドラの聖人』――『金焔の』ブロスベルか……んま、そんなとこだ」
「やはり、『聖人』狙いですか。きっと、もっともヤりやすい相手を臨機応変にヤるつもりでしょう」
「……フィル王女はどうなんだ?彼女も『聖女』だぞ?」
アリスは、再び、口を挟んでしまう。
すると、パスクとケネスがそろって妙な眼差しを送ってきた。
「な、なんか変なことを言ってしまったか?」
「……いや。まあ……正直、他の『聖人』『聖女』に比べてあの王女様は見劣りしちまっているというか――」
「あまり不躾なことを口にしてはいけませんよ、ケネス。ただ、フィル姫は帝国にとって、都合がいい存在なだけです。現時点では、ね」
「いや、パスクもかなり不躾だとは思うが……一体、どういうことだ?」
「彼女は王族で、『聖女』ですから。軍議の場では否応なく甚大な決定力を有せるのですが、いかんせん、フィル姫に実戦の経験がありません。敵対国としては、自国に有利になることはあっても、不利になる可能性は万に一つもない存在です。まあ、現時点では、ですが……」
パスクが繰り替えす『現時点』というセリフにアリスは引っかかりを覚えたが、聞き返せるような状況でなかった。
ローブの襟を正すと、パスクは愛用の捻れた魔道杖を手に取った。