第三話――魔人と死神と皇国の聖女-22
「なにが、いるんだ?」
「――アルフォンシーヌ・ゴーン。ゴルドキウスの『死神』です」
「なっ――」
アリスは、一瞬、叫びそうにもなったが、必死にその声を押し殺す。
――ソレぐらいの状況判断ができなくて、なにが『聖騎士』だ!
そんなふうに気張っていると、目前を通り過ぎようとしていた給仕嬢が突然、語りかけてきた。
「おおっ、耐えた耐えた。アリスもなかなか、様になってきたじゃねぇかよ、オイ。パスクの隣に立つ女としてな?」
「っ?……け、ケネスか?」
紺色のメイド服にカチューシャ、純白のエプロンを纏った二十前の娘だ。しかし、その粗野な口調と黄土色の眼を目に、アリスはその正体を看破した。
侍女は、あからさまに不満げな表情を浮かべる。
「なんでぇ。お姫様に続いて聖騎士の姉ちゃんまでもこの反応――俺、密偵やめちゃおっかな……」
「それは、私が困るので勘弁してください。――それで、大体の予想はつきます。誰でしょう?」
「楽曲隊、ハープを弾いている女の前。右から三番目のヴァイオリンを弾いている、黒髪の男だ」
「男?女じゃないのか?」
アリスは、思わず口を挟んでしまう。
するとケネスが自身の顔を指差した。