第三話――魔人と死神と皇国の聖女-21
「ええ。基本的に、私は他人と争う道を極力、選ばないようにしていますが……決して、交戦する気がないわけではありません。それしか道がないのであれば、私は――ね」
寂しそうに、パスクが微笑んだ。
この男は、優しい男である。けれど、生まれた環境、生きてきた世界、そして、その自身の才能のために、戦わずにすまない局面には何度も遭遇してきたのだろう。
――そんな、侘しい笑みだった。
アリスは料理の取り皿を、ナプキンを敷いた膝の上に置くと、隣の、愛しく、強く、孤独な男に体重を預けた。
「っ?……アリス、さん?」
「安心しろ、パスク。きみは、私が嫌わないでいてやるから。私だけは、きっと、パスクのすべてを見て、それでも、好きでいてやる」
「アリスさん……」
「ふふっ。私はしつこいぞ?覚悟しておけ」
「……はいっ」
今度の笑みは、アリスの大好きなパスクの笑顔だった。
ふたりきりならば、ここで接吻でもできたろうし、その次に……いや、これは願望ではなく、妄想というか、そうなるだろうな〜、という想像というか――。
アリスは、ひとり赤くなると俯いた。
タイミングがいいのか悪いのか、パスクがアリスの身をそっと押しやると、突然、立ち上がった。
「パ、パスク?」
「…………やはり、いますか。まあ、予想通りといっておきましょうか」
ポツリとパスクが漏らした呟きを、アリスは聞き逃すことはなかった。
その凛とした雰囲気に、探るように、小声で訊ねてみる。