第三話――魔人と死神と皇国の聖女-20
「いいではないですか。彼らは彼らで、あれで気が収まるのであればね」
「よくはないッ!私は、パスクが馬鹿にされるのが、たまらなく悔しい!」
「ありがとうございます。私は、アリスさんがそうやって私のために怒ってくれるだけで十分ですよ」
「ぅ〜〜っ。い、いつもそうやって……」
「アリスさん、酔いましたか?顔が赤いですね。なんなら、夜風にすこし――」
「わっ、わかって言ってるんだろう、きみは!顔が、そこはかとなくニヤけているぞ?」
「おや?ばれましたか」
「くぅ……」
そこで、パスクはクスクスと、堪えるように笑った。
初めこそ羞恥と怒りに赤面していたアリスも、ふっと表情を崩す。
……彼のために怒っているのに、その当人がこれでは――な。なんだか、どうでもよくなってきてしまった。
アリスは、密かに肩をすくめた。
なんだかんだといっても、結局、パスクは、開会前のフェニックスの王族たちとの問答で、「もし、もしですが……おそらく、私は、二度目の愚行を許すタチではありませんので、その『二度目』を決行する場合は、相応の覚悟を持って行うことを事前に報せておいたほうがよいかと思うのですが、いかがでしょう?」と釘を刺していた。
アリスの目から見て、不死鳥の国の面々は豪胆英気の類ではない。ここまで言われれば、刺客を用いることはないだろう。
「……ですが、これですべての問題が解決するとは思ってもいませんよ、私は」
「これで?」
唐突に口を開いたパスクへ、アリスは聞き返した。
パスクが頷いてくる。