第三話――魔人と死神と皇国の聖女-15
「……。まあ、いいさね。んで、アンタのご主人様はどこにいんの?アンタのことだから、そうそう、離れりゃしないでしょ?」
「パンも気づいているのだろう?きみも知覚で捉えているはずだ。近くにいるよ…………ふふん。どうだい?ここ五十年で、俺は『韻』という感性を磨いてみたんだ。気付いたか?いま、俺は知覚と近くを――」
「うっさい!だ〜か〜ら!どこにいんのよっ?」
「ふむ……。困った、どこだろう?」
赤山猫と一角獣の、チグハグな問答を耳に、アリスも懇談会場を詮索してみた。
すると、立食形式のため、食事の並べられた机の置かれる区画で、ウロウロとする小さな背丈の少女が目に止まった。
「なあ、パン。彼女、じゃないだろうか?」
アリスは屈むようにして、パンの目線にあわせて料理卓を指差した。
パンが、金色の双眸をスッと細め、確認する。
しかし、それよりも早くに従獣ルードが真贋を把握した。
「そうだな。彼女の挙動不審は、おそらく、空腹のあまり、鼻腔を経由し、わずかなりともの食欲への抑制を図ろうとしての行為だと俺は考える」
「あっそ。ホレ、ルード――ご主人様を呼んできなさいよ。どうせ、開式の時には『聖人』『聖女』は集るんだし、一通りの挨拶が済むまでは食事はできないんだからさ」
「ほう?俺ときみの考えが一致する確立は三十八回に一度という低いものなのだが、今回は見事に同じ感想を抱いたようだね。珍しいことも――」
「早く行け!」
パンが、ルードへと怒鳴った。
……『聖獣』の中には普通の、常識的な性格の個体は存在しないのだろうか?
アリスは、不敬なりとも、そんなことを考えてしまった。
その間にフィルとの挨拶も済んだのだろう、見るとパスクも『ユニコーンの聖女』へ視線を送っている。
一角獣の、その角でつつくなどという極めて粗暴なコンタクトに少女は、この距離からでもわかるほど大きく、ピクンと肩を跳ね上げた。
次に、その従獣と短い会話を行い、コチラへと顔を向けてくる。
パスクの姿を捉えたのだろう、トテトテと歩み寄ってきた。