第三話――魔人と死神と皇国の聖女-14
「――これは、パスク公。お早い到着ですね」
会場内に入って、十歩ほど――初めに声をかけてきたのはフィル王女だった。
普段はアリスと同じく、武人の格好を込んでいる彼女も、さすがに王族だ、その『白の姫』の字に負けない純白のドレスを纏っていた。
パスクと、挨拶代わりの世間話を始める。
手持ち無沙汰なアリスは周囲を見回した。美しき姫騎士の背後には、『聖獣』ペガススであるグレンフェデリック――グレンも、天馬の国の紋章が記された紫色のヴェールを纏い、立っていた。
しかし、その隣にはもう一頭、馬影があった。
クリーム色の、グレンとは比べるまでもなく濃い色の白馬だ。だが、その毛色の表現としては黄金色――と称するのが正解のはずである。
なにせ、その額からはアリスの腕よりも長いだろう角が生えているのだ。
一角獣――『聖獣』ユニコーンである。
アリスも、パスクやエレナのお供としてこの『聖獣』と、その主である『聖女』には面識があった。
「ハァイ。グレン、ルード」
足元で、パンが長い尾をフリフリと、その二頭へと話しかける。
天馬グレンはあからさまに翼を震わせて怯え、一方、一角獣ルード――ルードヴィーグは無感動に、その硝子玉のような双眸で赤猫を見下ろした。
「こんばんは、パンクチュアリエーム。…………その蝶ネクタイ――似合っているよ」
「……ハァ」
グレンよりも一回り低い声で、一角獣は声を発する。
しかし、パンは、なにが気に食わないのか嘆息を返した。
ルードが、その本当の意味での馬面をかしげる。
「ん?今のが、ダメだったかい?俺としては、前回のきみの指摘を踏まえての発言であり、実に友好的かつ感情的な言動を行えたと自負しているのだけども」
「あのね、私は確かにこういった席では服装を褒めれば女は悪い気はしない――と言ったわ。それは、認める。けどね、ルード……私は蝶ネクタイしかしていないの。そこらへんの着飾った女と同じように褒めたって嬉かないわよ。第一、あんたの植物じみた性格を知ってんのよ、私?」
「ふむ……。これは、また検証のいる言葉をいただいた」