第三話――魔人と死神と皇国の聖女-12
「――いえ、もう……なんていうんでしょう、言葉にもできない美しさといっても過言ではないのですが、それでもっ、あえてっ、言わせてくださいっ」
そこで、パスクが息を吸い込んだ。
「サイッコォ――――ッッ、ですっ!」
鼻息荒く、至福にひたるパスクを見つめ――、アリスは、ひたすら赤面した。
いまの自分の姿はついさっき、姿見で確認したばかりだ。
自分で言うのもなんだが、色白で、女性的なふくらみも、なかなかのものだ。そんな体躯を誇るかのように――そんなつもりは、アリス自身には一切なかった――胸元が大きく開かれたドレスを纏っている。
栗色のウェーブのかかった頭髪に、クリーム色のレースのあしらわれた紅黄色ののドレスが、自分でも満足のいく色調を見せていた。
懇談会――といっても、突き詰めれば、息抜きのパーティーであり、社交場である。そんな懇談会に参ずる格好として、不備はないという自負はあったが、これほどまでに称賛されるとは思いもしなかった。
……パスク本人は、いつもと大して変わらない白ローブのため、褒め返すという返答もできない。
「んま、仕方ないのよ、アリス。この男ってば、これまでこういう上流の社交場への招待は蹴っていたからね――ドレス姿の女性は、ウン割り増しに見えるんでしょうよ」
アリスの足元で、パンがつまらなさそうに鼻で笑った。
彼女(?)は、一応、正装のつもりなのだろうか、真っ黒な蝶ネクタイをつけている。金紋様の赤毛猫に蝶ネクタイ、……なかなか、似合っていた。
そんな使い魔へ、興奮に一区切りをつけたパスクが指摘する。
「いえいえ。二度だけ、私は宮廷に上がったことがありますよ?陛下直々の招待を無下にできる身分ではなかったのでね」
「ああ、そういえば、そんなことがあったわ。すぐに帰っちゃったから忘れてた」
「………………長居できる、わけないでしょう?」
「そうね」
パスクが、遠い目をした。パンもパンで、人間で言えば肩をすくめたような動作をする。
……なんなのだ、一体?
アリスは不審げに、そんな主従を観察した。無言の中で、それでも行われる、その会話に自分が入り込めないのが、どこか悔しい。
「――さて。では、いきましょうか、アリスさん?」
しかし、沈黙も時間にしてみれば数秒だ。
すぐに普段の朗らかな面持ちに戻ったパスクが、右肘を差し出してきた。
アリスは、一瞬、固まってしまったが、彼の思惑を理解し、出された肘に己の左腕をからませた。