どこにでもないちいさなおはなし-76
「……僕のこと、分かる?」
青い髪の男の子はそっとリアサの顔を覗きこみながら恐る恐る尋ねました。リアサは大きく頷き、涙が止まらず、嗚咽も続けていました。
「ネーサ、で、いいの?それとも、リール?」
「……どっちでもいいわ、オギアス」
リールは顔を上げて泣きながら笑みを浮かべて言いました。それからオギアスに抱きつき、二人は互いを確かめ合うように抱きしめあいました。リールが落ち着くとオギアスは何でだか分からないけど、と、前置きをしてここにいた理由を話しました。
イヴであったリールには分かっていました。リアサからリールであるイヴ・ネーサに戻る時にワンの言葉が聞こえたのでした。イヴとしての力はまだ残っているけれど、もう二度とその力を使わなくてもいい世界になったことも分かったのでした。
「……ねぇ、オギアス。ジャックとマイラにも会いに行きましょう」
リールはオギアスの手を取ってひっぱりました。オギアスは大きく頷くと立ち上がり、二人はその庭からそっと姿を消しました。庭は最後の役目を終えたというようにその入り口を自ら閉じてしまいました。
ですが二人はまだ知りませんでした。マイラとジャックはあの暖炉の暖かい炎の前で横たわり洗礼を受けた時に戻って静かに長い眠りについてしまったことに。