どこにでもないちいさなおはなし-75
「あの子がそうなんだろうか」
老婆にそう話しかけると、老婆は目を閉じて首を振った。
「わかんないねぇ、そればっかりは。でもあの子が生んでから急にお互い老け込んだからねえ。いよいよ、かね」
「あぁ、本当に。数年前まで君は全然変わらなかったのにな、マイラ」
老翁はマイラにそっと近づいてこわごわ抱きしめた。マイラも老翁の背に手を回して同じように抱きしめる。
「あんただって変わらなかったさぁ、ジャック」
手に力が篭る。二人は最近は一緒に居る事が多くなっていた。
「逝く時も一緒にいようね。マイティに怒られないようにさ」
ジャックが頷く。
リアサは森の中を駆け抜けていました。そしてすっかり道に迷って茂みを掻き分けていた時でした。急に開けたところに出たと思ったら、そこは別世界のように綺麗な所でした。
そこは、たくさんの緑濃い植物が惜しげもなく葉を広げ。淡い色の花が咲き乱れ。
小さな池にはいくつもの水蓮の葉が浮かび。
守られるように、小さな白い花びらに露をたっぷりと吹くんだ花が咲いていました。
アマガエルがゆったりと泳いでは水面に小さな模様をつくり。
アメンボがひらり、ひらりと水面を通っては、小さな揺れをつくり。
池の傍らには何時のころからあるのか知れない大木が横たわり、緑の小さな苔の住み処になっていました。
大木には小さな置物のような物が座っていました。
リアサはわぁっと声を上げてそこへ入って行きました。そして色んな所を見ながら、大木に座る置物をじっと見つめました。
「……カエル、さん?」
苔が生え木屑や葉の欠片がついたその置物を綺麗にしようと手を伸ばして触れた時でした。頭の中に何か映像が出てきました。びっくりしてリアサは手をひっこめました。怖くなって帰ろうと立ち上がった時でした。その置物の瞳から涙が流れ落ちました。リアサはその涙の落ちる先を目で辿りました。そこには同じデザインの指輪が二つペンダントのように置物の首に掛かっていました。
「……綺麗」
リアサがそれに触れた瞬間でした。大量の記憶と意識が流れ込んできてリアサの目が金色に変わりました。そうして目の前にある置物を見て涙を流しました。
「……私、この人、知ってる」
両手で置物の顔を包み込むように触れました。その時でした。リアサの両手から金色の蝶とまばゆい光りが出て置物を包み込み、置物はあっという間に青い髪の男の子に変わりました。リアサの目から涙が零れ落ち、男の子の頬から手を離して顔を覆って声を上げて泣きました。