どこにでもないちいさなおはなし-74
「二人はもう役目が終わったんだろう?だったら幸せに暮らしたらいいよ」
その言葉に今度は二人が首を振りました。ティアンが驚いて目を見開くと、マイラが言いました。
「まだ終わってないんだよ。……役目が終わったらもっと早くにお迎えがくる筈なんだ。姉さまがそう仰ってたからねぇ……。だから、三人とも役目が終わってないんだろうねぇ」
「この世界を見守れって事かもしれんな」
ジャックもそう続いて言い、三人はため息をつきながら話を続けていました。
一緒に暮らそうというマイラの申し出を、それでもティアンは断り、一人メリーガーデンを翌日には出ていました。
見送りに来ていたマイラにティアンはあの赤い石をそっと渡しました。
「リールの命の欠片らしいんだけど、本当かどうか分からないし、もしかしたらどこかで紛れ込んだだけかもしれないし。マイラにあげるね。リールはお姉さんの忘れ形見だったから、何かそういう物があった方がいいでしょ?……形見って言ったら変だけど」
マイラが受け取るのを渋っているとティアンは首を振り、自分の胸元から二つ指輪を通した銀のチェーンを見せました。
「僕にはこれがあるから。ずっとリールと一緒に居るような気がするから、大丈夫なんだ」
そうしてしばらく経ってやっとキメール・ド・イヴに着くとそこから秘密の入り口を通って、あの庭に着きました。
「リール、覚えてるかい?僕たちはここに居たんだよ、あの日」
同じように丸太に座りました。
そしてじっと目の前にある池を見つめて動かなくなりました。
「僕はいつまでも待つからね。ゆっくり帰っておいで。……はい、おしまい」
長い白髪の老婆はぱたんと本を閉じると金髪の少女の顔を見た。少女ははーっと息を吐き、目に溜まった涙を袖で拭き、起き上がる。
「いつ聞いてもすごく良い話。でもだぁれも知らないのよ」
「ほんとにリアサはこのお話が好きだねぇ」
ふっふっふと笑いながらそう呟き、よっこらしょと立ち上がると本を本棚にしまった。
「好き。だって、面白いもん」
うーんっと少女は伸びをして立ち上がり窓の外を見た。外はまだ日が当たっていて、冬だというのに暖かそうだった。
「さて、大おばあちゃま、私帰るわ。お母さん、心配するもの」
老婆はうんうん、と頷くとすっかり寝てしまった老翁に手作りの薄い布団を掛けてやってからリアサを玄関まで送った。
リアサは老婆に手を振るとリアサは元気よく駆け出して行った。
老婆が部屋に戻ると眠ったと思った老翁は起きていて、煙草を吹かしていた。