どこにでもないちいさなおはなし-72
「ありえない、そんな事は。お前が、ワンだなんてっ!」
ティアンは首を振りました。
「有り得るさ。一緒にこの世界を作った仲間だろう?お前が神なら僕だって神なんだ。……ただし、お前に刺殺されるまで、だけれどねぇ。君はやっぱり馬鹿だった。あの時大きな失敗をしていたの気づいてなかったんだろう」
「失敗?……まさか、あのナイフから血が?」
「あぁ、そうさ。僕の血が一滴垂れてそれがティアンの中に落ちたんだ。長かったよ、この日が来るのをずーっと待っていた」
ティアンがあの日のゼロのように口元を歪めて笑いました。
ゼロがカタカタ震え始め、ティアンと距離をとりました。模型の前に立ちパチンと指を鳴らすとその手に水が入ったグラスが現れました。
「ち、近づくなっ、この水を流し込んで大洪水にするぞっ」
それを静観していたティアンはぐっと手に力を込めました。ゼロは慌ててグラスを消しました。銀の鍵をティアンは折ろうとしていたからでした。
「……ゼロ、そんなに警戒しなくても僕はもう昔のような力は無いんだよ。生まれ変わっただけなんだからね。……第一、ここに来て初めて思い出したくらいなんだ。……なぁ、ゼロ。取り引きをしないか?」
ティアンは銀の鍵をちらつかせて言いました。ゼロは仕方なく頷きました。ティアンはにこりと笑って言いました。
「あぁ、良かった。素直に取り引きに応じてくれて。僕の要求はね……」
「大おばあちゃまっ」
金髪のふわふわの髪をした少女が暖炉の前に座って揺り椅子に座る老婆に話しかけた。赤い古ぼけた表紙の本を手に持ち長い白髪のまっすぐな髪をした老婆がそっと顔を上げた。
「悪かったねぇ、ちょっとぼぉっとしちゃったみたいでさぁ」
もごもごと口を動かしてそう呟くと、またページをめくり始め、側には耳の尖った白髪の老翁もソファで二人のやりとりを見つめています。
「続き、早く読んでっ」
金髪の少女は目を輝かせて暖炉の前に寝そべり足をばたつかせた。
「はいはい。ちょっとお待ちよ……」
老婆は衣服から煙管を出して咥え、煙をくゆらせるとまた、読みはじめた。
「僕の要求は簡単な事だよ」
ティアンはゼロに向かって言い、ゆっくり歩いて近づき、その手に鍵を乗せました。
「君はこの世界から手を引く。それからネーサの命を少しだけ残して欲しい、少しだけなら問題ないだろう。いつかネーサがティアンにまた巡り会えるようにしたいんだ。……僕はねティアンをあの庭で待たせるつもりなんだ。ティアンの目を通してずっとあの世界を見てきたけれど、僕たちがどうこうして良い世界じゃなくなってるんだよ、ゼロ」
ゼロは手の上に乗った鍵を見つめ、喉を鳴らしました。