どこにでもないちいさなおはなし-71
ジュリアスははっと気づきその両目から大粒の涙をぼろぼろ流しました。
「私は、何て事をしたんだ」
手からあの本が床に落ち自然にめくれていたページが止まりました。しかしジュリアスはその本に目もくれず、立ち上がり、近くにあった窓から身を投げたのでした。
ゼロは思いがけず簡単に手に入った事に笑いが止まりませんでした。そして笑いながらリールの衣服や荷物を調べ始め、ポケットから全ての物を出してその笑いがぴたりと止まりました。
「鍵は……どこ、だ」
ゼロはもう一度全ての荷物を調べましたが、鍵は出てきませんでした。リールの服を持つゼロの手がわなわなと震えていました。その目は血走っていき、当り散らすように服を力任せに破りました。
「くそっ、あの馬鹿女、どこに隠した!」
室内にゼロの叫び声が木霊しました。その時、ゼロの背後から声を掛ける者がいました。
「僕が持っているよ、ゼロ」
ゼロが振り向くとそこにはティアンが立っていました。そしてその手には銀の鍵が握られていました。
「お、前はっ」
ティアンが頷きました。そしてペタペタとゼロに近づいていきました。
「そう、ネーサの婚約者のティアンだ。……ネーサは保険を掛けて僕に預けっぱなしにしたみたいだけど、僕はこの結末を聞いてしまったから、追ってきてしまったんだ」
ゼロの顔に笑みが戻りました。そして、立ち上がるとティアンに手を伸ばしました。
「そうか、じゃあ、話が早い。渡してくれるだろう?君はネーサと違って何も出来ないのだから、ボクとやりあうなんて考えないよね。君が渡してくれれば、新しく作り直した世界で、君をイヴのような存在にしてあげてもいい」
ティアンは首を振りました。そして、楽しそうに笑ってこう言いました。
「いやぁ、ゼロ。久しぶりだね。おねしょは治ったのかい?」
ゼロの表情が強張りました。伸ばしていた手が細かく震え始めました。その言葉はアイツしか知らないはずでした。
「な、んで、お前がっ、その言、葉をっ」
ゼロの表情に脂汗が浮かびました。ティアンは鍵を弄ぶように手の上でぽーん、ぽーん、と投げました。
「分かってるだろう?……ゼロ。僕だよ」
ゼロの喉がごくりと鳴りました。少し思案したような表情になり首を振りました。