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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-67

翌朝、見張りをしていた船員が遠慮がちにジャックとリールとティアンが眠る部屋をノックしました。一番先にその音に起き上がったのはジャックでドアを開けると話を聞いていました。やがて分かった、と短く答えるとドアを閉めて起き上がっていたティアンに言いました。

「臍が見えたそうだ」

ティアンはリールの方を見て、そっと体を揺すりました。

「リール、起きて。世界の臍だよ」

リールが目を開けて飛び起きました。そしてジャックとティアンを見て頷きました。


その日の朝食は静かなものでした。誰も何も話さずにもくもくと口に運ぶだけでした。一番先に席を立ったのはリールで、食堂を後にしました。リールはその足で船長に会いに行き、話をしていました。

ティアンは最後までのろのろと食べていました。何だか今日は気分が優れないような気がしていたのでした。


数時間後、船は臍と呼ばれている小さな島に船体を寄せました。その島は白い霧に覆われていて何も見えませんでしたが、リールは甲板からその島を見つめていました。そして船が止まったのを確認すると皆の方を見て言いました。

「この島はイヴしか入れないの。だから、皆は待ってて。私だけ行ってくるから」

皆は一同に頷き、リールだけが縄梯子で下に下りるのを見ていました。
リールがその島に辿り着くとさぁっと霧が晴れていきました。甲板に居た皆は息を呑みました。白いきらきら光る砂の島に金色の珊瑚がいくつも生え、尻を七色に光らせた虫が無数に飛び、その珊瑚に止まっていました。中央には大きな白い巻貝をベースにした砦のような城が建ち、その扉は繊細な銀細工で出来ていました。リールは城の前に立ち、皆に手を振りました。そして大声でこう叫びました。

「ジャックー、マイラー、ティアンーっ。それから、キメールの皆っ。ありがとう!幸せに、なってねっ」

その顔は満面の笑みでした。ジャックはそれを見て息を呑み、目に涙を浮かべました。ティアンとマイラは言葉の意味が分からず、首をかしげていました。そしてリールが船長の方を見て頷くと船がゆっくりと動きはじめました。
ティアンとマイラはお互い顔を見合わせて、ジャックを見ました。ジャックは涙を流して俯いていました。船員が船長の掛け声で持ち場に戻ると、船は完全に島と反対の方へ進みはじめました。

「ねぇ、ジャック、何なんだい。どうしてリールが乗ってないのに出航してるんだい」

マイラは痛む指に力を入れてジャックの服を掴み揺らしました。ティアンは小さくなっていくリールとジャックを見比べて動揺していました。

そして、ジャックの口が重々しく開かれ、話を聞いたマイラは力なくそこに座り込み声を上げて泣きました。
ティアンは雷に打たれたように呆然と立ちすくみ、あの島があった方を見つめると頭の中にネーリアの言葉が浮かんできました。


「オギアス、貴方をこの姿に変えるのは意味があるからです。それはいずれ必ず分かります。その時は誰に構う事無く自分の意思で動きなさい。……伴侶の貴方を止める事が出来るのはイヴだけなのですから」


「……行かなきゃ」
ティアンはそう呟くと次の瞬間には海に飛び込んでいました。ジャックが手を伸ばしたのが振り向きざまに見えました。


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