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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-65

「ジャックっ!」

ジャックがその声に思わず振り向き、怒りを顕にした表情を浮かべました。

「なぜ来たのです」

リールはごくりと喉を鳴らしました。両手を握り締め、ジャックに向かって言いました。

「イヴ、だから。……ジャック・パーンに命じます。乗務員を非難させ、結界を。ここは私が何とかします」

イヴの言葉は絶対でした。ジャックは歯がゆい思いをしながら、小さく頷き、甲板に出て戦っていた船員を誘導し始めました。

黒飛竜に乗った兵士達はリールを見つけるとそれぞれにやりと口元を歪めて笑いました。

「おーまーえが、イヴかっ!」

先頭に居た兵士がそう叫び、リールは大群と向き合いました。

「そうです。今なら見逃してあげましょう。大人しく帰りなさい」

リールがそう叫ぶと風がリールの背から吹き荒れました。黒飛竜達は声を上げながら向かい風から逃げようとしました。しかし乗っている兵士達はそれを許さず、その場に居続けました。

「あぁそうですかと帰ると思ったのか。お前を殺せばなぁ、安泰なんだ、世界はっ!」

振り上げた剣に力が集まっていました。リールは両手を前に突き出し、短く言葉を紡ぐとたくさんの蝶を出しました。それは風に乗って黒飛竜達へ向かいました。近づけば近づくほどに蝶は形を変え刃物のように尖りました。兵士が剣を振り下ろすと同時に蝶は黒飛竜の肉をえぐりました。剣から出た衝撃波はまっすぐにリールへ向かってきました。リールはそれをよける事もせずその身体で受け止め、飛ばされてマストに激突しました。黒飛竜の多くは羽をもぎとるように蝶が肉をえぐったのでバランスを崩してそのまま海へ落下していきました。あちこちで波が高く立ち上りました。

リールは震えながら起き上がると口の中から血を吐き出しました。減ったとはいえまだたくさんいる黒飛竜に向かって両手を伸ばしました。

「こんのやろうっ!!」

兵士の何人かが飛竜を操りリールめがけて突っ込んできました。リールはちらりとそれに目をやるとふうっと息を吹きかけました。するとその飛竜達を巻き込むように旋風が起き、兵士も飛流もバラバラに砕けました。

「……まだ、やりますか」

手にたくさんの蝶を集め、リールが顔を上げました。その目は金色に光っていました。

「今度は本気でいきますよ。……貴方達が知っているイヴ・ネーリアとは比べ物にならないほど、私の方が強いわ。もう一度聞きます。……まだ、やるの?」

兵士達はぐっと声を詰まらせましたが、一人がそれでもリールに向かって飛竜を飛ばすと他の者もそれに習うように向かってきました。

「……馬鹿ね。ここで逃げれば平和な世界で幸せに暮らせたのに」

リールは呟き、たくさんの蝶をその両手に出しました。そして、目を閉じると呪文を唱えました。

「愚かなる者へ、死の裁きを」

金色だった蝶は全て黒くなりました。そしてまるで鷹や鷲のようにものすごいスピードでそれらは向かってくる兵士と黒飛竜の体内に吸い込まれていきました。それが入った瞬間に彼らの身体はあっというまに骨になり、バラバラと音を立ててある者は甲板へ、ある者は海へ落ちていきました。


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