どこにでもないちいさなおはなし-61
「僕、言ってない事があるんだ。あのね、本当は……」
ティアンは自分の手を見つめながらごくりと喉を鳴らして続けました。
「本当は、僕オギアスなんだよ」
リールは何も言わずにその言葉を受け止めました。ティアンが顔を上げてリールを見ました。
「知ってた……よね」
リールが頷きました。
「なんとなく気づいてた。でもティアンが思い出してないかと思って言えなかったの。もう全部思い出してるの?」
ティアンが頷きました。
「大体は思い出してるよ。ごめんね、こんな姿で。何も出来なくて。君が泣いていても慰める事も出来なくて」
リールは首を振りました。そしてティアンの手に自分の手を重ねました。
「ずっと会いたかったの、オギアスに。きっとそう言っていたからお母様がオギアスも連れてきてくれたのね。それに、オギアスが居なくちゃいけない旅になるから一緒にいるの。……それに、一緒に居てくれなったらマイラのお店にも行けなかったと思う」
ティアンはリールの手を弱弱しく握りました。
「この旅の結末を僕は知らないけれど、この旅が終わったら僕と一緒にいてくれる?伴侶とかそういうの関係なく、こんな姿でも僕と一緒になってくれる?」
リールは握られた手を強く握り返しました。
「私、ずっとオギアスに会いたかったのよ。伴侶として、だったけど、ずっと会いたかった。お父様とお母様のようにオギアスと幸せになるんだと思っていたの。……だって他の子を好きになっても自分よりずっと早く死んでしまうし、私が生まれた時、まだ幼いオギアスが私を見に来てくれたの覚えているから。赤ん坊なのに、不思議ね」
「覚えてるのかい?本当に?僕が君のほっぺたにキスしたことも?」
ティアンが驚いてそうリールを見て尋ねました。リールは嬉しそうに頷くとそれにね、と続けました。
「オギアスから来たお誕生日のお手紙やプレゼントも大切にとってあったのよ。一番気に入っていたのは銀の簪。お母様が持っているのにそっくりで本当に嬉しくて毎日つけてた」
「あぁ、あれは、特別に作らせたんだ。真珠も僕の国では……」
ティアンがそこまで言って目を閉じて涙を流しました。
「……ラーの国は真珠や珊瑚が本当に素敵だったよね」
リールがティアンの顔にそっと手を伸ばし、流れた涙を拭いました。
「うん。……ごめんね、泣いたりして。リールの方がずっと辛いのに。僕の父上と母上は王族ではないからきっと生きていると思うけれど」
リールは胸が締め付けられる思いでした。ティアンの家は代々イヴの伴侶を出している家柄だったので、その可能性は低いと本当はティアンも思っているはずだと分かっていたからでした。
「きっと、生きてらっしゃるわ。いつかお会い出来たら本当のお母様やお父様のように慕ってもいいかしら」
ティアンは嬉しそうに頷きました。