どこにでもないちいさなおはなし-58
「船をお借りしたいのです。それを動かす人員とルルビーやヤールから身を守るために術氏を数名。必ず目的の地について全てが終わったら無事にお返しいたします」
どうかお願いしますと、リールは頭を下げました。女王は眉を顰めました。
「……それは難しい問題です」
やっと口を開くとそう呟き、言葉を続けました。
「何か理由が御有りなのでしょう。お聞かせいただけませんか?」
リールは困った顔をしました。そしてジャック達の方を見て言いました。
「二人きりにしてくれる?……今はまだみんなには言えないの」
三人は頷き、その部屋を後にしました。
リールは三人の足音が遠ざかるのを聞いてから口を開きました。
その頃世界中ではイヴは本当は死んでいなくて新しいイヴは世界を壊そうとしているという噂が流れていました。人々は混乱し、嘆き、そしていつの間にかイヴを殺せば良いのだと言う結論に達しました。それはメリーガーデンにも細波のように広まっていました。
女王はリールの話を聞いて顔を青ざめて言いました。
「貴方様の話には根拠が無さ過ぎます。それに……」
リールはその言葉を遮りました。
「いいえ。きっとそうなるでしょう。……だから私はそれを止めに世界の臍へ行くのです。大変失礼を申し上げますが、貴方も、あと数週間……いえ、もしかしたら数日したら私をイヴとし認めなくなり、殺そうとお考えになるようになります。それは貴方を疑っているのではなく、そうなると分かっているから申し上げているのです。ただ今の段階でそうなってないのはきっとあの光の壁と、メリーガーデンという国が一番自然に近い国だからでしょう。今ご決断して頂かないと……お話した通りになるのです」
女王は何度もため息をつきその話を聞いていました。水差しから水をグラスに入れて一気に飲み干しました。
「……でもどうやってそれを止めるのですか」
リールは首を振りました。
「仰って頂けないのですか」
リールが頷きました。
「イヴとして私を信じて頂くか、ネーサとしてイヴの器を疑って信じていただけないか、それだけです。ですが、メリーガーデンの為にも、貴方様の為にも、この世界の為にも……協力をしてください」
頭をリールが下げました。そして女王が口を開くまで上げようとしませんでした。女王は目を閉じてしばらく思案していましたが、やがて目を開けると言うのでした。
「分かりました。仰る通りにしましょう」
リールが顔を上げて笑みを零しました。
「ありがとうございます。本当に感謝致します」
「ただし、条件がございます。我が国民を連れて行くのはご遠慮頂けませんか?」
女王はまっすぐにリールを見つめて言いました。リールは少し思案してから頷きました。