どこにでもないちいさなおはなし-57
「本当は一番に見せたかった。でも、そんな風にはこの城ではいかないのです。……遅れてしまって申しわけありません」
リールが見ていない事を知っていて女王は頭を下げました。そしてしばらくしてから頭を上げるとそっと扉へ向かいました。
「私は外に居ます。ずっと、貴方様が出ていらっしゃるまで、誰も寄せずに耳を塞いで待っています。どうぞいつまででも別れを偲んでくださいませ」
がちゃん、と扉の閉まる音がしました。リールは小さなマイティを抱き上げました。思ったより軽く、暖めるように胸に抱いて、知らない間に涙が零れていました。それはマイティの身体に落ちて吸い込まれていきました。
「マイティ」
小さく掠れた声で呟きました。片手でそっと耳や頭を撫でました。涙で滲んでしまって瞬きをする度にそれは繰り返し落ちました。
「マイティ、マイティ」
何度も何度も名前を呼びました。返事は返ってきませんでした。
「あのね、マイティ。……あ…りがとう……」
小さなマイティの身体に顔を埋めてそう呟くと、リールは声を上げて泣きました。
扉の外では一国の女王が硬い木の椅子に座ってそっと両手で耳を閉じ、目を閉じました。
それでもリールの悲痛な泣き声は女王の耳にも届いていました。
その夜リールはその部屋から出る事はありませんでした。
朝日が差し込む頃冷たくなったマイティをクッションの上に横たわらせると昨夜もらった花をマイティの上に乗せました。
それからリールは扉を開け、じっと座っている女王にリールは跪きました。
「女王陛下。……御心と御気遣いに深く感謝を致します」
女王は腫れた目の奥に潜む風格があまりに変わっているのに驚き立つ事も出来ずにいました。リールは女王の手を取り恭しく口付けをしました。
朝食は夕食と同じ部屋で全員で取りました。リールの目が腫れている事には誰も触れませんでした。そして玉座の間へと全員は呼ばれました。
リールが入るとそこにはマイラやジャック、ティアンはもちろん、女王が王座に座っていました。そして臣下達が顔をそろえていました。
女王は立ち上がりその席を譲りました。リールは当たり前のようにそこに座り、女王はリールの目の前で跪き頭を垂れました。
「私は、メリーガーデンの女王を始め全ての方に感謝を致します。手厚く歓迎頂き、旅の疲れは癒えました」
女王が顔を上げました。
「勿体無いお言葉でございます」
「……大変申し上げにくいのですが私の同行者と女王陛下以外は退出して頂けますか?」
臣下達は頷き、早々に部屋を後にしました。扉が閉められるとリールは立ち上がり、女王の手を取り王座を勧めました。渋々ながら女王が王座へと座ると、リールは頭を下げて口を開きました。
「実はお願いがあって参りました。どうしてもメリーガーデンのお力を借りたいのです」
女王は頷き、王座に座っている事を居心地の悪そうにしながら仰ってくださいと言いました。