どこにでもないちいさなおはなし-49
メリーガーデンの術氏の一人、ヤンウェは風が変わった事に気づきました。見上げると数枚の花びらが光の壁をすり抜けて入ってきていました。側に居たヤンウェの氏であるガンはヤンウェの様子に気づき同じように花びらが入るのを見ました。
「珍しいなぁ」
ヤンウェにガンはそう声を掛け、ヤンウェは頷きました。
「はい、まるで風が誰かを連れてくるようです」
ヤンウェの尖った耳が風に揺れました。それを心地よさそうに受けるとまた光の壁を維持するのに集中し始めました。
その頃岩山の頂上付近で三人はマイティとリールを待っていました。どんな話をしているのかは言われなくても検討がついていました。少なくともマイラとジャックには。
ティアンは小さな石に座ってポケットからあの指輪を出して眺めていました。マイラが煙管を咥えたままティアンに近づいてしゃがみ、そっとその指輪を長い指で指しました。
「ティアン、これにどんな意味があるか知ってるかい?」
ティアンはマイラの顔を見上げました。
「これはね、イヴとその伴侶が持つ指輪で、それ以外の人は触れないんだ。触るとたちまち肌が黒くなって腐ってしまう。もちろんイヴの子供は特別だけれどね」
ティアンは指輪にじっと目を戻してそっとポケットにしまいました。
「どうしてそんな話をするの?」
ティアンはしゃがれた声でマイラに尋ねました。マイラはカツンと煙管を逆さにして地面に叩きつけると自分の荷物の中に素早くしまいました。
「何かがあってもその指輪が必ずティアンを守ってくれるさ。だからもしあたしやジャックやマイティに何かあったら今度はあんたがリールを守っておくれよ」
ティアンは頷きました。満足げにそれをマイラは見つめると吹いていた風が追い風になった事に気づきました。
「風向きが変わったな」
マントを邪魔そうに払いながらジャックがそう呟き、マイラは頷きました。
「歓迎してくれてるんだろう?白髪のあの方が」
メリーガーデンでは着々と客間の準備が進んでいました。女王の突然の命令に臣下達は心底不思議だったのですが何も聞かずにただ続けていました。王座では女王が大臣に新しい命を下していました。
「一番高価な布と暖かいお湯をいつでも準備出来るようにしなさい」
少し太った背の低い大臣は大きく頭を垂れ、女王の前を後にしました。そしてそれを妖精を使って城中に伝えたのでした。