どこにでもないちいさなおはなし-40
そんな風にマイラが時間稼ぎをしているとき、裏口ではジャックとマイティが無事に外に出ることに成功していました。
ジャックはつないであった馬に乗るとマイティからティアンを受け取り、リールとティアンを自分の前に座らせました。
「…3時に噴水の前で」
ジャックはマイティに告げ、馬を歩かせ始めました。。
マイティは去っていくジャックに大きく頷き、店の表へ続く路地を音を立てずに歩きました。
マイラが兵士と遣り合っているのを見ながら、チャンスをうかがっていました。
兵士が中へ入っていき、マイラが出てきた瞬間、マイティも飛び出しました。
「マイラ、別行動だ」
マイラはジャックに気づき、二人は走りはじめました。
暗い路地の方へと。
兵士は奥の部屋のテーブルを見て、食器が5セットあることでマイラを呼びました。
「女ぁっ!!!」
振り返った軒先は蛻の殻でした。
兵士はぎりりっと歯軋りをさせました。
他の部屋の兵士も集まり、一斉に店内から出て行きました。
兵士の一人は城をめがけはしりはじめました。
他の四人は方々へ散らばり、血眼になって、マイラを探し始めました。
「しっかり、つかまっているんだよ」
ジャックはそう言うと馬の腹を蹴りました。
二人が返事をする前に馬は走り出し、思わず二人ともジャックに力いっぱいつかまりました。
馬は一生懸命に走ってくれるのですが、追っ手がいつの間にかジャック達の後ろに迫っていました。
「ジャック、来てるよっ」
ティアンがそう叫ぶとジャックは少しだけ後ろを振り返り舌打ちをしました。
リールは胸がドキドキしていましたが、やがて意を決したようにティアンに言いました。
「お願い、ティアン、私を支えてて」
ティアンはリールの顔を見て困った顔をしましたが短い腕を伸ばしてリールを抱きしめました。
リールはジャックから手を離し小さな手を合わせて目を閉じゆっくりと息を吐きました。
合わせた手の中から徐々に黄色い光が漏れ辺りを包み、手を開くと一匹の立派な金色の蝶が現れました。
「ジャック、ティアン、目をつぶっててね」
額に汗の玉をいくつも浮かべてリールが言い、二人は頷きました。
リールが目を開けると蝶は意を得たように三人の頭上を一回りしてから後方の追っ手へと迫りました。
次の瞬間、目の前で稲妻が落ちたような光が辺りを包み、追っ手の叫び声と馬の鳴き声が響きました。
リールはその光が消える前に意識を失い、ティアンはずっしりと重くなったリールを落としそうになる程でした。
「な、何が起こったの?」
ティアンは必死にリールを抱きかかえたままジャックに尋ねました。
ジャックも首を振り、ようやく恐る恐る目を開けて後方を確認して目を丸くしました。
追っ手の姿は消えていました。
慌てて馬を止めると向きを変えさせ、ティアンもその光景に驚きました。