どこにでもないちいさなおはなし-39
「…ありがとう、マイティ。…私、イヴじゃないわ。皆の前では。違うの。だから、イヴって思わないで。まだ、何も出来ないんだから」
ネーサはにこにこと笑いました。
「リールって、呼んでね。イヴって呼んでたら、ジュリアス王の家来が追っかけてくるもの」
ネーサは、言いました。
そして、また、笑いました。
そんな平和な時間を打ち破ったのは、乱暴に扉を叩く音でした。
「おいっ!居るのは分かってるんだぞっ!」
ガチャガチャとノブを回す音が響きます。
五人の顔から笑みが消え、一瞬にして表情が固まりました。
マイラは立ち上がり、ジャックに目配せをします。
ジャックとマイティはそれぞれリールとティアンを抱きかかえました。
それから三人は頷き、ジャックとマイティは裏口へ向かいました。
「何だい、朝っぱらから」
マイラは口調を変え、叫びます。
きちんと着ていた服を乱れさせ、胸の谷間が見えるようにしました。
四人が見えないように店と部屋を隔てる扉をゆっくりと閉めました。
ジャックは裏口へ着くと鍵穴から外をうかがいました。
リールはジャックに抱きついていました。
「あー、うるさいね。何だってんだい」
マイラはあえて大きな声で言いながら店の扉を開けました。
外には5,6人のルルビーの兵士が立っていました。
腰に手を当て、マイラは出入り口を塞ぎます。
「お前のところに不審者が居ると、聞いた。中を調べさせろ」
リーダーの兵士が大きな声で言いました。
胸元からジュリアス・ドイルのサインが入った書簡を見せます。
「ちょっとお貸し」
マイラはひったくるように奪うと、見下すような態度でその書簡を見ました。
「…はーん?王じきじきとは、また。大事な。誰も居ないけどねぇ」
書簡を乱暴に返すと大あくびをしました
「…どけ」
リーダーの兵士はいらいらしたように言い、マイラの肩に手をかけます。
「はいはい。言われなくてもどくさ」
ひらり、と、マイラは横に退きました。
兵士たちは室内を見渡しながら、店内に入っていきました。
全員が入ったところで、マイラはそっと、扉から外へ出ました。