どこにでもないちいさなおはなし-38
「……姉上の夢かしら。本当に泣き虫なところも、そっくり。……姉上が宮殿から来た使者に連れて行かれたのはそれから二日後よ。父も母も、それ以来死ぬまで姉上については何も言わなかった。私が御輿を追ったあの時だけ、父が悔しそうに言ったの。……どうして姉上だったのかしら。私だったら、良かったのに……」
ジャックは起き上がりマイラの頬に手を伸ばしました。
「君も、泣き虫だ」
流れた涙を指で拭います。
「その時『与える者』に?」
ジャックは尋ねました。
頬をそっと指で撫でながら。
「えぇ。気がついたら周りの子より成長が遅かったわ。母も、父も、悟っていたかのように何も言わなかったけれど。……もしかしたら、知っていたのかもしれないわね。姉上がイヴになることを知っていたように。ますます人目をさけ、キメールを出て、転々として、いつしか、一人になって、この街で時を待ったの。……長かった」
マイラはジャックの手に自分の手を重ね、頬に押し付けました。
「……君はネーリア様に聞いたか?この旅のラストを」
ジャックは空いた手でマイラを抱き寄せて、耳元でささやきました。
マイラは抵抗もせず抱き寄せられ、ジャックの肩に額をつけました。
それから、小さく首を振りました。
「……そうか。俺は聞いた」
ジャックの声が震えていました。
マイラは心が痛くなって、顔を上げて、ジャックの唇に口付けしました。
「いいわ。言わないで。きっと、姉上は私に言いたくなかったのね。……いずれ分かるなら、それもいいでしょう」
マイラは少し笑みを浮かべました。
穏やかなその顔はネーリアにそっくりでした。
マイティは寝ているふりをして、聞いていました。
ティアンも同じでした。
二人は思い思いのことを考えていました。
マイラとジャックは抱き合ったまま、横になりました。
ネーサは、寝息を立てたまま、涙をやっぱり流していました。
そうして、軽い仮眠を取ったあと、皆は起き上がりました。
「お母様はね。私の心に手紙を残してくれたの」
朝食を5人で取っていた時、ネーサはポツリと言いました。
皆の手が止まり、ネーサに視線が集まりました。
「その手紙を、その手紙にしたがって、世界を……」
言葉につまり、ネーサは俯きます。
「今はまだ、全部いえないけど……。みんなも知らないこと、だから。……ジャックは予想がついているかもしれないけど」
ちらりとジャックをネーサは見ました。
ジャックは小さく頷きました。
「……だから、あのね。一緒に、みんなにきてほしいの」
マイティはふんっと笑いました。
「あたりまえじゃないかイヴ様に着いていくのは」
マイラもその言葉に頷きました。
ティアンもこくこくと小さく何度も頷きます。
ジャックは目を細めて笑いました。