どこにでもないちいさなおはなし-36
リールは顔を上げて、それを見ました。
「………っ…ひっ…っく…」
言葉が途切れました。
リールは何もいえなくなっていました。
「俺……いや、私たちは、ネーサ。君に仕える為に、生きてきたんだ。本当のイヴである、君に」
ジャックが言いました。
輝石から漏れている光は徐々に収まってきています。
「いや、出来ない、私。世界をなんて、出来ない」
小さな肩が震えています。
「お母様に会いたい。会いたかった……」
世界を背負うには、小さすぎる肩でした。
イヴ・ネーサは、マイラの家のテーブルに座ったまま、ずっと泣いていました。
散々泣いたはずなのに、涙がかれることなく頬を流れます。
「そんなの、ひどい。ひどい。いくら未来がそうだからって、ひどい。なるようにしかならないなんて、ひどい。イヴなんて、いや。お母様がイヴじゃなかったなんて、嘘よ。信じられない。だって、お母様は、確かにイヴだったもの」
小さな手で懸命に涙を拭います。
鍵が出てきた鏡は光を失い、また、元の鏡に戻っていました。
ティアンは少女が泣く声で目を覚まし、じっと、隣の部屋で聞いていました。
彼もまた、思い出していました。
自分の立場を。
けれど、素直にそれを受け入れる事が出来ませんでした。
そうするには、あまりにも、状況が悪かったからです。
「…お願い。夢だと、言って」
誰に言うでもなく、イヴ・ネーサは、言いました。
沈黙が部屋を包みました。
すすり泣きだけが、大きく、聞こえました。
涙を流していたマイラはネーサを抱きしめました。
「…姉は貴方に託したんです。…お願い、姉の思いを無駄にしないで」
もう、元には戻れないと、ネーサは気づいていました。
ただ、認めたくありませんでした。
マイラの口調が変わったことで、それは決定打になったような気がしました。
ネーサは泣き止みました。
それから、少し考えました。
「……でも、わからない。どうしたら、いいの?」
ネーサは顔を上げて、言いました。
「お母様の思いは、きっと……世界を滅ぼすことなんかじゃ、ないわ。……どうしたら、いいの?」
ジャックはネーサの目を見ながら口を開きました。