どこにでもないちいさなおはなし-34
ルルビーの王、ジュリアス・ドイルは宮殿内の階段を駆け上がっていた。
長い階段、家臣に待つように命じ、自分だけ全力で上っている。
たくさんの名もない兵士は城下町を荒らし、価値のあるものを奪い合っていた。
ジュリアスは忌々しげに飾ってある花瓶や絵画、彫刻をなぎ倒し、ギラギラと光る剣で壊した。
その度に形ある物は最後の悲鳴をあげ、螺旋状の階段に響いた。
彼が最上階の踊り場へ足を踏み入れた時、イヴは、じっと、いつものように窓際に立ってかつて栄えて美しかった城下町が壊れる様をみていた。
「イヴ!!!!」
ルルビーの王はひどく荒々しい形相で叫んだ。
王の前の銀のすばらしい扉は開いていた。
薄い布はたくし上げられ、風に揺れていた。
イヴはその声にゆっくりと振り返った。
その傍らにはいつものように青い髪の男がいて、イヴとしっかりと手を握り合っていた。
「来るのは分かっていました。だから、皆を逃がしました。……あなたの狙いは私でしょう?」
イヴの声は凛としていた。
少し前まで泣いていたとは、思えないほどだった。
「ああ、そうだ。お前を殺せばオレはこの世界の王になれる。オレが王になるのに、お前だけが邪魔なんだ!」
王は目をギラギラと血走らせて、部屋へ足音を立てて踏み入った。
「殺されるのが分かっていて人を払ったなんて、滑稽だな。……知っているんだぞ。お前の秘密も」
イヴは目を閉じてそれを聞き、身を硬くした。
「……秘密?私がイヴの直系じゃないことですか?」
青い髪の男はイヴの手を強く握った。
「ああ、そうさ。だから、オレはお前を殺しても神に殺される事はない。本物のイヴなんざ、とうに絶えたんだからな!世界は今、イヴなんていう力も何もない者を望んでないっ!!」
にやりと笑う王は、一国の王には似つかわしく思えた。
私利私欲だけで動く姿に、イヴは、初めて神を呪った。
「神はそんなに優しくありません。私を殺してどうするんです?世界は滅びるかもしれませんよ」
イヴは努めて静かな声で告げる。
その姿はまるで神のようだった。
「滅びる?何も力のないお前に何が出来る。お前はキメールがイヴという存在を誇示するために用意した影武者。お前が隠しているあの本のありかを聞いたら、オレはすぐにでもお前を消す」
じりじりと王はイヴに近づいた。