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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-27

ティアンを投げた男は床を蹴りとび、リールを奪うように抱きかかえて、仲間を殺した男からリールを遠ざけました。

リールは顔面を強く擦り、血がにじみました。
痛くて、怖くて、ますます涙が溢れ、声をあげてなきました。




 キメール・ド・イヴの中心図書館の一番奥の司書長室に掛かっている絵画の後ろには金庫がある。
鍵はキメール議会長が所有し、金庫番号は司書長が代々受け継いだ。

その金庫に入っている物は一冊の古ぼけた本で、けれど、中身はイヴしか知らなかった。

その本には次の文で始まる。

「この本は世界の成り立ちを示した物であり、創造した神の言葉である。
言葉を信じぬ者には無駄な知識となり、言葉を信じる者には有益な知識となるだろう。

この本は世界の未来が書いてあり、本を読むべき者は、最初よりこの地にいたイヴのみだ。
イヴ以外の者が本を開いた時、世界は音を立てて、破滅を迎えるだろう。
それは根元より水が抜け、浮いている大陸は水没して、のち、崩れさる」


この本の存在はごく一部の者にのみ伝えられていた。
けれど、そのごく一部の者も知らない事実があった。

イヴは金庫の番号も、鍵も、本当は所有していた。

そして。

イヴも知らなかった。
この本の存在を知っている者が、まだ居ることを。
それがイヴにとって脅威となっていることも。




 路上で寝そべったティアンの元に一人の男が近づいた。

「悪かったな。遅くなって」
彼はやさしげにそういうと、ティアンを抱き上げ、側に居た馬へ乗せました。

「俺が戻るまで、お前がみてろ」

馬はぶるぶると鼻先を揺らしました。

男は酒場を見ると息を整えました。
風が吹いてとがった耳が見えました。
静かに扉に近づくと、ためらいもせず開け放ちました。

新しい男の進入に、店内にいた者の動きが止まります。
一瞬の隙をついて、耳のとがった男は口の中で言葉を呟きました。
それは呪いの言葉でした。
さーーーー…っと音を立てて、彼がつけている腕輪から灰色の小さな精霊が何十何百と飛び出しました。
それらは男たちにまとわりつき、鼻や口から体内へ侵入しました。

目を見開いたのは一番手前に居た魔導師でした。


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