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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-20

ジャックは今までと違う音に耳をすませ、目を開けた。
地下牢の入り口に影が伸びる。
不気味な形をかたどって見えるのは不揃いな石壁のせいか。

影が持つ蝋燭の炎がゆらゆらと揺れた。
ジャックは気づかれぬように入り口を見やり、じっと、息を潜める。

シャリ…シャリ…。

布擦れの音は近くなり大きくなった。
同時に何かの香の匂いが強く入ってきた。
警戒して口と鼻に袖を当てた。
これでずいぶんと煙を防げるはずだ。




見開いたぎらぎらした瞳はやがてその入り口から入ってくる人を見つめ、驚きに変わった。

布を擦り急ぎ足で入ってきたのは、金色の髪を腰まで伸ばし、上等な絹に金糸で細やかな刺繍をあしらった豪華な服を纏った女性だった。

ジャックは弾かれたように姿勢を正し、口と鼻から袖を離して、恭しく頭を下げた。
石畳に頭をつけんばかりの深さで。




 ルルビーの城は混沌としていて、有名だ。
概観は左右にとがった屋根のある塔があるごく一般的な城のつくりをしている。
その形はキメール・ド・イヴの宮殿に比べればシンプルだ。

では何が混沌としているのかと、言えば、城内や城下町だろう。
ルルビーは多民族が鮨詰めのように集まって出来た国で、その階級は力で決まる。
頂点を極めた者は、その瞬間から常に周りを疑って生きていかなくてはならない。
またその逆、地に一番近い位置に居る者は、常に生きていくことだけを考えなければならない。

略奪や殺害は日常茶飯事的に起こり、刑や罰はあるものの、取り締まれていなかった。

そんな国だからこそ、他国は恐れ、協定を定め友好関係を築いていた。
イヴの力が唯一及びきっていない国だった。

そんな中、現在の王であるジュリアス・ドイルは他国との絆を活用することを思いつく。
彼はイヴの存在をよく思わないことを公言していたし、他国もそう思っている事に気づいていた。
計画を練るのに要したのは半年ほどだった。

彼はまずラーの国から声をかけた。

「一緒にイヴを引きずり落とさないか?」

と。
水中を好み、争いを嫌い、軍事力で劣っているラーの国にそれを断る事なんて、出来るはずがなかった。


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