どこにでもないちいさなおはなし-19
ギリリと歯をかみ締めた少女がまさにマイティに向かって歩き出した瞬間に、当のマイティは口を開いた。
「……聞いてるさ、もちろん。ただ、オレはね、いかなくちゃいけないの。わかる?」
マイティの目の前まで来た少女は下からマイティを睨みつけた。
「理由は?言えないようなもんなの?」
よく見れば本来かわいい筈の瞳も血走っている。
マイティはそれに目もくれず、鞄を肩にかける。
「言えないね。なぜなら、君も、遊びだったから。どいてくれないか?」
マイティを本当によく知っている人ならば、わかったのだろう。
彼は今、真剣なのだ。
いつもの饒舌が出ないほど。
少女は左手で思いっきりマイティの頬を叩いた。
乾いた音が室内の端から端まで響く。
叩かれた衝撃で左を向いた顔を戻すと、恐ろしく冷たい目で少女を見た。
「さよなら、サラ」
そして恐ろしく冷たい声音で言い放ち、少女を横に突き飛ばすと、その小さな古ぼけた一室から足早に去っていく。
白い月が何時の間にか空に居ました。
マイラの店の前でしばらく座っていたリールとティアンでしたが、ふと、手元の茶色い封筒を開け始めました。
リールがまずべりべりと後ろの糊をはがすと、その音でティアンも同じように開け始めたのでした。
中からは同じ分だけの、結構な量のお金が出てきました。
二人は顔を見合わせました。
それは全部紙幣だったのですが、共通語で書かれたゼロの数は、多かったのです。
そのゼロの数が多く書かれた紙幣が30枚ずつ入っていました。
ティアンはじっとそれを見ていましたが、不意に顔を上げました。
よく見ると周りの人がチラチラと自分たちを見ているのでした。
ぞくり、と、背筋に嫌なものを感じてぱっと立ち上がります。
リールの手をぐいっと引くと、いいました。
「行こう。ここに居てもしょうがないよ」
リールも同じことに気づいていたらしく、頷いてその封筒を抱きしめると、せーので、走り出しました。
その足は街の中心へと自然と向かっていました。
まだ幼さが残る顔をしたジャックは地下牢で何時の間にか眠りについていた。
ジジジ…と油が燃える音がたまに大きく響いて眉間に皺を寄せることはあっても、起き上がることはなく、看守も何時の間にか転寝をしていた。
外はとっぷりと夜に浸かっている。
だが、国中を上げてネーサの誕生を祝う宴が所々で行われ、明るさを失うことはなかった。
地下牢とて例外ではなく看守の何人かはぶどう酒を持ち込み、楽しそうに飲んでいた。
元々地下牢はめったに使われることがなく、警備という警備もなかった。
牢を信じていたし、鍵は開けることなど出来ないはずだった。
そんな地下牢に近づく影があった。
歩くたびに床に布が擦れる音をたて、それは段々と近づいた。