どこにでもないちいさなおはなし-17
「まってぇ……」
大人が担いでいる御輿に追いつくはずもなく、少女は立ち止まる。
肩が激しく上下する。
背後の足音が大きくなり、大人が少女の腕を取った。
「マイラ、もう、お前の姉さんじゃないんだ」
がっと向きを強制的に変えられる。
目の前には眉を吊り上げた父親がいた。
「……父さんの子供でもないし、母さんの子供でも、ない。家族でも、ない。……最初から
決まっていたんだよ」
吐き捨てるように怒鳴る。
少女は顔をくしゃっとゆがめて、わあわあと泣き始めた。
山の向こうまで届きそうな声で。
いつまでも響くような声で。
「おらっ!!大人しくしろ!」
ガンと、強い衝撃がジャックの後頭部を直撃した。
じめっとした空気。
ひやっとした湿気。
カビ臭い匂い。
唯一の灯りは安い油を燃やしただけのもので、それの匂いもまた、充満している。
「ってぇ……」
大小様々な石を積み上げられて作られた壁にあたった後頭部を押さえ込み、丸くなる。目の端には不覚ながら涙まで浮かんだ。
「まったく、このキメールの宮殿に忍び込むなんて出来るわけないだろう」
ガチャン。
冷たい音を立てて黒く光る重い鉄格子の扉を門番が閉めた。
全部で5ヶ所もある鍵を1個ずつ閉めていく。
ジャックは憎々しげに門番と扉と鍵をにらみつけた。
「今は幸いにもネーサ様が御産まれになられて、すぐに罪がどうこうなるわけじゃないからな。残された時間を楽しめ」
ふんっと、馬鹿にした視線を送って、門番はその場を離れていく。
誰もいなくなった地下牢で、ジャックはペッと、唾を吐いた。
「知るかってんだよ、ネーサ様がなんだっての」
ズキズキと痛む後頭部からは少し出血している。
ごろんと、冷たい石畳に寝転がると見えない暗い天井を睨んだ。
「おや、もう終わったのかい?」
長い銀髪のマイラは口から煙管を離し煙りをふーっと吐きだしました。
少し動く度に耳につけた長いチェーンのアクセサリーの先についた鈴がチリンチリンと小さな音を出しています。
上等な上着を着たカエルとあかむらさきのワンピースを着た少女は一度顔を見合わせてからうなずきました。
二人の手はしっかりと握られています。
「ふぅん。じゃあ、教えておくれ?改めて」
楽しそうに机に肩肘をつき、その手に顎を乗せてマイラはにこにこと二人を見て笑いました。