どこにでもないちいさなおはなし-16
窓からは暖かい太陽の日差しが燦燦と差し込んでいます。
きれいな空でした。
雲ものんびりと空にいました。
お店の方はたまにドアが開いたり談笑する声が聞こえたりしました。
上等な上着を着たカエルと、少女は、もう何時間もそうしていました。
「名前って、難しいのね」
不意に少女が漏らしました。
あごに小さな手を当てて俯いていたカエルは顔を上げました。
「どうやってつけたらいいのか、わからない」
少女は首を小さく左右に振ります。
上等な上着を着たカエルは大きくうなずきました
「僕もそう思っていたんだ」
「名前なんてなくても良いんじゃないかしらって、思ったの。本当は何度も」
「うん」
二人はまた黙りこくってしまいました。
外はいつのまにかオレンジ色に染まっていて、きらきらと窓に反射していました。
上等な上着を着たカエルは、じっと、その窓を眺めていて、ぼんやりと考えていました。
「あっ」
そうして声をあげました。
ペンを持って思いつく名前を書き上げていたあかむらさきのワンピースの少女はその声にびっくりして文字がゆがんでしまいました。
「僕、思いついたよ」
そう言うと小さな手でポケットを探りました。
そうして昨夜マイラに教えてもらった硬貨を出しました。
夕日にキラキラとそれは輝いて見えました。
「リールとティアンにしょう。滅びた国の名前だけど、僕たちの記憶みたいで、ぴった
りだと、思うんだ」
少女は少し怪訝な顔をして考えていました。
カエルは少女の表情を伺うように、覗き込み、じっと、待ちました。
少女はしばらくしてから言いました。
「そうね。ね、私は、どっち?」
その顔はどことなくうれしそうでした。
「姉さまっっ」
金色の御輿を追って銀髪の幼い少女は懸命に砂利道を走った。
「姉さまっ。まってっ」
頬には涙の痕と泥がついていた。
少女の背後からは何人もの大人が目を見開いて追っかけている。
「まってっ、まってぇっ」
はぁはぁと、荒く肩で息を繰り返し、何度も転んだ膝小僧からは血が流れていた。
御輿は幾重にも薄い布が垂れ、御簾が中を目隠ししていた。
たまにひらり、ひらりと、風で揺れるものの、決して中が見えることはなかった。