どこにでもないちいさなおはなし-11
「そうさ。イヴ様は今回の事件で、すべての力を放棄したんだ。……けど、これは秘密なんだぜ?うっかり漏らしたら、オレもお前も、役人に殺されちまう。もちろん、話した相手もな。……ま、お前が言わなきゃ、オレもお前も殺されないで済むけどさ。……どうして力がなくなったか、なんてぇのは、聞くなよ?オレだって、全て知ってるわけじゃぁ、ないんだからさ」
「ふぅーん……」
早口で言われて、大きな目の女は、頷いただけだった。
「……ま、あれだろう。大方、定例議会で、何かあったんだろ。それがオレらに流れてくるのは、もうちょっと先のことさ。何しろ、いま、キメール・ド・イヴの城内は大混乱って、話さ。もちろん、大臣やら、そういう連中だけだけどな」
「でも、まだ、噂なんでしょう?」
「……まぁ、な。でも、結構、筋は確かさ」
「そう。……じゃあ、また、何かわかったら、教えてね」
大きな目の女は片目をつぶって、マイティの頬に口を寄せた。
それから、マイティの口を塞いだ。
「ごめんなさい。知らなかったの」
突然現れた女性に驚きながらも戸惑った声で少女は頭を下げました。
上等な上着を着たカエルも、それに続いて頭を下げます。
甘い匂いが段々とスパイスが効いた香りに変わりました。
「まぁ、いいさ。で、何の用だい?見たところ、二人だけみたいだけど」
長い銀髪の女性は、片肘を机につけて、もう片方の手で煙管を口元へ運びながら、言いました。
口元から煙がすーっと出ていくのを見ながら少女は数歩机へ近づきました。
「実はおたずねしたいことが、あるんです」
上等な上着を着たカエルも後に続きます。
二人はポケットからそれぞれの硬貨を出して、机にばらばらと置きました。
長い銀髪の女性は、しばらく、その様子をじっと見ていましたが、出てきた硬貨を見て、少し目を見開いたようでした。
少女は硬貨を机の上で女性の前まで滑らせてから、机の前にまっすぐに立ちました。
「このお金が使えるか、教えてほしいんです」
知らず知らずのうちに少女は手を握りしめていました。
心臓がドキドキ、していました。
上等な上着を着たカエルもそれは、同じでした。
長い銀髪の女性はもう一度煙管を口元に運び、煙は吐いてから、カツンと灰を側の小さな火鉢に捨てました。
それから煙管を置いて赤い爪の白い指で慎重にその硬貨を取り上げました。
肘をついたままの手でパチンと指を鳴らすと細い鎖で繋がれた明るい光りを放つ精霊がその硬貨を持った指先に近寄りました。
少女と上等な上着を着たカエルはまぶしくて目を細めました。
「ふぅん……。これは、まぁ、たいしたもんだこと。初めて見たよ」
少女と上等な上着を着たカエルが目をしぱしぱさせている所に、長い銀髪の女性から声がかかりました。
二人は顔を見合わせましたが、すぐに、女性を見ました。