田辺誠の日記V/最後のカルテ-3
「あぁ…男子だ」
微かに左の頬を歪める初老の男。
「彼は同姓愛者?」
「どうかなぁ女装して相談しに行っていた様だし…」
話を聞いている若い男の顔に僅かな不快感が走る。
「しかも…その女教師を殺害する前に強姦している」
初老の男の顔がうんざりした様に顔を歪める。
そして…。
「更にはその死体と暮らし続けた…三年もね」
初老の男のうんざりした表情は明らかな嫌悪感へと変わった。
「それがバレて?」
初老の男の嫌悪感は若い男にも伝染している。
初老の男が静かに頭を振った。
「いや…自分の通っていた高校の女生徒を絞殺したんだ、その際に全てが発覚した」
絞り出す様な初老の男の声。
「また…ストーカーをして?」
喉の乾きのせいか若い男の声も掠れてきた。
「いや…女子生徒とは面識自体、薄そうだよ」
「しかし…なぜ?」
二人の間に僅かな沈黙が流れた。
「彼と彼女の存在を否定する様な素振りみせたからだろう」
「まさか…」
再び沈黙。
「君も見たろ彼の新しい人格…鏡に映る自分の姿相手にカウンセリングをしている女医として人格」
「え…ええ」
「彼が…いや彼女がそう語っていた」
初老の男はそう言うと黙り込んでしまった。
若い男もそれに従う。
鏡の向こうでは拘束着につつまれ男。
ブツブツと何かを呟き続けている。
初老の男と若い男は憐れみに満ちた瞳でその男を見つめていた。
完