愛しのお菊ちゃん2-1
飴玉から始まる恋
僕は制服のポケットから五、六個。
机の引き出しから更に五、六個。
でっかくてまん丸くて、一個二十円と非常にリーズナブルな飴玉を取り出した。
コーラ味やサイダー味が取り混ざってる。
駄菓子屋全盛の頃は安くておいしい飴玉と言えばこれだったみたいだけど。
最近、コンビニで見事復刻を遂げたんだ。
その飴玉を片手に収まんないくらい持って。
「お待たせぇ〜お菊ちゃん」
僕はリビングに戻った。
「まっ!」
僕の両手に盛られた飴玉を見てお菊ちゃんの顔がパッと輝いたけど。
直ぐに恥ずかしいそうに俯いちゃった。
僕はお菊ちゃんの横にニコニコと座ると。
「さぁ…手を出してぇ」
なんか幽霊さんを相手にしてるなんて思えないけど…まぁいいや。
お菊ちゃんの方に山盛りの飴玉を差し出した。
でもお菊ちゃんは。
「な…なりませぬ…その様な高価な物」
両手を自分の後ろに回して、目をギュッと瞑ってる。
すっごく欲しいけど、頑張って我慢している。
そんな様子がはっきりと見て取れて、メチャクチャ可愛い。
僕は両手の飴玉をガサッとテーブルに置くと。
その中のひとつを手にして。
「じゃあさ…口を開いてみて、お菊ちゃん」
僕の言葉に両目を閉じたままのお菊ちゃんが。
恐る恐るといった感じで、そのちょっと厚いけど可愛らしい唇を開いた。
僕は手にしていた飴玉の包みを剥くと。
ポィ――。
お菊ちゃんの口の中に優しく押し込んだ。
「あっっ…」
びっくりした様に目を見開いたお菊ちゃん。
眉間にシワを寄せ、眉毛をハの字に下げて。
いかにも恐れ多いって感じで上目遣いに僕を見てる。
右のホッペが口にした飴玉でポコッて膨れるし、その眼差しだしで本気で可愛い。
「おいしい?」
僕がニッコリ微笑みかけると。
お菊ちゃんもニッコリ微笑んでコクッと頷いた。
両膝の上に両手を置いたお菊ちゃん。
畏まった感じで前を向くと黙々と飴玉を舐めている。
飴玉を口にしてから一言も発してないお菊ちゃん。
もしかしたら物を食べてる時は喋っちゃ駄目って…教わってるのかなぁ。
僕はそんな事を考えながら…。
「小さくなったら…ちょっと硬いけど、カリって噛むと美味しいよ」
微笑ましくお菊ちゃんの横顔に語りかけちゃう。
口を閉じてモゴモゴと飴玉を舐めてるお菊ちゃん。
クルッてこっちを向くと。
僕の言った事を理解しようとしている様な真剣な面持ちでコクッと頷いた。
その様子に僕は。
やっぱり口に物が入ってる時には喋んないんだって確信した。
また前を見て、姿勢を正して飴玉を舐め続けるお菊ちゃん。
少しして。
カリカリ…ポリポリって飴玉を噛む音が聞こえてきた。
前だけを見て飴玉を噛み続けるお菊ちゃん。
そして噛む音が止んだ。