幼年編 最終話 別離-9
「父さん!」
「ふむ、リョカよ……。すまないな……、こんなことになって……。私だけならともかく、お前にまで、こんな辛い思いをさせて……」
「そんなこと、それよりも父さん、僕のことはいいから、早くそいつらをやっつけてよ!」
地べたに這い蹲りながら交わされる会話に薄ら笑いを浮かべるローブの男。彼はそっと手を掲げ、ジャミとゴンズを控えさせる。
「よく聞いてくれ、お前の母は……生きている。この世界の、どこか、いずれかで、今も、生きている。それを探すため、私は旅をしていた。お前に、お前に母のいる、家族というものを……見せたかった……。が、どうやらもう私も、ここまでらしい……。だが、希望だけは失うな……。私が調べてきた、これまでのこと、妻に関わることだ、きっと、いつか、必ずや……妻を、マー……ぐふぅ!」
「茶番はそこまでで結構です……」
言い終わるのを待たずにローブの男はパパスの背中に鎌を振るう。鮮血も勢いをなくし、ただだらだらと流れる。
「父さん! 父さん! しっかりしてよ! 僕は、僕はまだ!」
リョカは激しく身じろぎ、抗おうとする。
「騒がしいのは嫌いです」
しかし、ローブの男はそんな抵抗も許さず、彼をボールのように蹴り上げると、そのまま壁にぶつけ、さらにヘンリーをゴミでも放るかのように投げつける。
「ぐわあ!」
二人ともつぶれた蛙のように呻くと、そのまま気を失ったらしく動かなくなる。
「さてと、手間取りましたが……、デール様、お城へ戻っていただけますかね?」
思い出したように振り返るローブの男。デールは終始震えており、がちがちと歯を鳴らしていた。
「は、はい……」
恐怖におびえたデールが頷くのは当然のこと。彼にこの現状を覆すような力も知恵もないのだから……。
「ゲマ様、このガキと二匹はどうしましょう?」
煮え湯を飲まされたジャミとしてはいますぐにでもパパスのあとを追わせたいのだろう、鼻息を荒くしている。
「そうですね……、我らの教団ではまだまだ奴隷が不足しておりますし、連れて帰りましょう。そちらのベビーニュートとベビーパンサーは……、しばらくすればまた野生に戻るでしょうし、そうでなければ死ぬだけです。ほっておきなさい」
「は……」
ジャミとゴンズは頷くと、二人を抱えて遺跡を出る。
ゲマは怯えたままのデールの手を引く。
「ささ、行きましょう。貴方にはラインハット国を発展させる責務があります。我らが光の教団のためにも……」
「は……はい……」
無表情で頷くデールの目に意思はなく、視点も定まらない。
――ほほう、もう言いなりになってくれましたか。これなら調教の必要もありませんね……。
多少の滞りもデールを恐怖で支配するために有益であったと、ゲマは一人ほくそ笑み、光の精霊を集めると、移動呪文を唱えた……。
続く