幼年編 その六 策謀-8
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「おかえり。リョカ、こんな時間までどこに居たんだ?」
宿に戻るとパパスが先に戻っていた。
「ただいま。友達が出来て、一緒に遊んでいたんです」
リョカはヘンリーのことを伏せる。それは父に心配をかけたくないというよりは、ちょっとした秘密を持つことでの子供らしい優越感から。
「そうか。友達ができたのか」
息子に友達が出来たことについては素直に嬉しいこと。だが、今はただの旅路の寄り道に過ぎず、またすぐに別れる日がくる。例外なのはせいぜいサンタローズに近いアルパカのビアンカぐらい。
「うん。だからこれでラインハットに来る楽しみが増えました」
父の憂いを知ってなのか、リョカはポジティブに自分の状況を捉える。
「うむ。そうだな……。きっとまた、ラインハットに来ることにはなるだろうからな……」
そう言うパパスだが、それは「遊びに行く」や「調べ物があるから」などの安易な訪問には見えない。もっと違う、別の次元の用事で……。
「それじゃあおやすみなさい」
リョカはそう言うとさっさとベッドに入る。
明日もまた親分に朝から呼び出しを受けているのだ。
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ラインハット城下町、ヘンリーはリョカを引きつれ闊歩していた。
「ふむ、どうだリョカよ。ラインハットの街は。ここまでの賑わいを見せるのは、世界においてこのラインハットだけであろう?」
ヘンリーはリョカが各地を旅していたときき、これを自慢してみたかったらしい。もちろん、他国の情勢を子供ながらの視点でありながら、見聞したいという気持ちもありつつだ。
「ええ、賑わいだけなら初めてです」
リョカは素直にそう答えていたが、当然ヘンリーは渋い顔。「賑わいだけ」と言われたのが面白くないらしく、リョカに詰め寄る。
「おい、賑わいだけとはどういうことだ? 他にこれだけの発展を見せる国があるというのか?」
「いえ、その……、前に父さんと旅をしたサラボナの街はもっとこう、商業のレベルが違うというか……」
幼いリョカにしてみれば、ラインハット国の情勢は十分目を見張るもの。ただ、世界お経済都市となりつつあるサラボナと比べれば、まだまだ田舎臭さがあり、それはオラクルベリーに比べても感じられることだ。
「うむ。やはりサラボナか。俺もあの街の噂は聞いている。人々の誰もが金持ちで、金粉をまぶしたパンにサラダ、はては便所のそれにも使われているのだろう?」
「そんなことはありませんよ」
さすがにそれは誇張のされ過ぎとリョカは笑う。
「違うのか? では支払がオンスというのも嘘か?」
「オンス?」
「……重さの単位ですよ。金を量るとき、ラインハットではオンスを使っています」
デールの解説にようやく理解が追いつくリョカ。もしそれが真実ならば、財布はどれだけ頑丈でなければならないのか?
「それは嘘ですよ。船を買うならともかく……」
言いかけて思い出すサントフィリップ号の乗船客たち。彼らの会話にはたびたび商船を購入したとか店を新規出店したあり、あながち金塊で取引をしていてもおかしくないのかもしれない。
「そうか……。だが、貴様の目にもサラボナのほうが発展しているといえるのだな?」
「ええ、まあ……」
「なるほどな。ふむ。俺もお前のように世界を見て周ってみたいものだ」
そういうとヘンリーは考える様子で下を見る。
「兄上はいつも国をどうするか、それを考えております。きっとすばらしい王になるでしょう」
自慢の兄を心から尊敬しているであろうデールはヘンリーを頼もしい視線で見つめている。リョカも同年代でありながら、王の子として既に政治、経済に興味を示している彼をとても大人びていると思えた。