幼年編 その六 策謀-7
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本には黄金の竜が描かれていた。大きな玉座に鎮座する竜はシドレーとも似ても似つかない荘厳な存在。その周りには羽根の生えた人が複数おり、天空人とされていた。
かつてこの世界には地獄の帝王とされるものが居た。
その存在は長い間眠りについていたが、人間の欲望がそれを呼び起こした。
竜の神はそれを打ち破るべく、預言の内容を実行したらしい。
だが、ある魔王の出現が、預言を狂わせた。
全てを超越したとされる魔王は、やがて竜の神をはるかに越える力を手にした。
神は焦り、再び預言を実行しようと、勇者を招いた。
だが……。
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そこから先は水に濡れており、滲んでいた。
「ん〜、これと俺、なんか関係あるん?」
「そうだね。シドレーとは似ても似つかないし……。まさかシドレーも黄金になるの?」
「さあな。そしたらドラゴンキッズに間違われるな……」
なははと笑うシドレーだが、いい加減間違われることに慣れてきたらしい。
「えと、あと他にも……」
デールは他のページを捲りだす。
「ほら、ここ……」
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空に浮かぶ城。天空城に関する謎。
それは竜の神の力の込められたオーブにより維持されている。
たとえ竜の神が不在であろうと落下しないのはこのためである。
また、そのオーブは精霊の王がこの世界にもたらしたとされており、人の手で複製することはかなわないとされている。
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「なんじゃい。どうも胡散臭いな……。竜だと思ったら今度は精霊? 妖精の亜種みたいなもんじゃろ? なんでそないな奴が城浮かべるのにオーブ作るのよ」
「ん〜、やっぱり御伽噺なのかな……」
そういって本を閉じるデール。彼もやはり半信半疑らしく、あまり落胆した様子が無い。
「つか、一体誰が書いてん、こんなアホな絵空事……」
本の表紙を見ると、やや汚れているが、そこには「レイク……」とあった。
「レイク? もしかしてアニスさんが書いたのかな? ほら、あの人、レイクニアって言ってたし、光るオーブを探してるって……」
「まさか、あのショタコン娘がか? いや、でも、たまたま同じ姓とか……」
もう一度著者名を調べるシドレー。ごしごしと乱暴にこすると、著者の名前がうっすらと見える。
「いやいや、名前あるで? ほら、ポロ……、ポーロ・レイクなんちょかさんの著書だな」
「あ、本当だ……」
想像通りとは行かずがっくりとするリョカ。とはいえ、ここまで本がここまで傷むのならそれなりの年月が必要となる。アニスはどう見ても十代後半程度。普通に考えて彼女が書いたはずもない。
「リョカ君はいろんな知り合いがいるんだね。やっぱり旅をしているから?」
「え? ああ、そうだね。でも、旅をしているってことは、出会いの数だけ別れがあるんだ……」
「そっか……」
リョカは笑顔で答えるが、デールは楽しいだけが旅ではないと知り、浅はかなことをいったことを省みている様子。
「だから僕、そういうの絵にしてるんだ。これまでに行った町、そういうのを忘れないためにもね……」
「へえ、リョカさんは絵も描けるんだ。ますます尊敬しちゃうなあ!」
「あ、いや、人様に見せるほどじゃないんだけどね……」
ますます尊敬の眼差しを強めるデールにどうにもやりにくさを覚えるリョカ。最近出会ってきた子達のように、そういう垣根を作らない関係のほうが気楽でよいと考えてしまう。
「それじゃあ僕ももう直ぐ勉強の時間だし、行くね……」
「うん。……そうだ。僕もヘンリー親分にレモネードを届ける約束をしてたんだっけ……!」
二人はぷっと笑い合うと、黴臭そうな部屋を一緒にあとにした……。