幼年編 その六 策謀-5
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「そうか、坊主兄は王子様か……。あぐあぐ……」
リョカと同じくねぎ間と雛皮で従属を誓ったはずのシドレーだが、すぐにいつもの通り、男は坊主扱いしだす。
「ふむ、まあお忍びではあるがな……」
「兄上、あまり身分をおいそれと話すようなことは……」
「心配するな、コイツはハイヴァニア……。あのパパス殿の息子だ」
ヘンリーは確認を取るようにリョカを見るので、彼は二度肯定の頷きを見せる。
「リョカさんはパパスさんの息子さんでしたか……。通りで機転の利く……」
弟は感心した様子で呟くので、シドレーが「坊主の親父はどんだけ有名なんだ?」とリョカに聞く。とはいえリョカも詳しくは知らず、曖昧に笑うだけ。
「こいつはデール・ラインハルト。俺の弟にして一の子分だ。お前ら、たより無い奴だが敬うように」
「はい、ヘンリー様」
リョカは別段気にしていないらしく、むしろ新しい友達との変わった遊びという感覚だろう。
「おいおい、ヘンリー様はないだろ、呼ぶのならヘンリー親分だが……なんかしっくりこないな……」
「ガキが親分いうてもな……」
食べ終わったところで憎まれ口をたたき出すシドレー。ヘンリーは食べ終わった串を投げつけるが、それはへろへろと地面に落ち、ガロンがべろべろと舐め始める。
「リョカよ、このベビーニュートはなんなのだ? 先ほどから人語をしゃべるが……」
「えと、シドレーはベビーニュートじゃないんです。というか、僕も本人もわからなくて、それにこの前まではメラリザードみたいに赤かったし……」
「ほう、奇妙な魔物……というにはその猫ほど威圧感も無しか……。貴様一体なんなのだ?」
ヘンリーは首を傾げて彼を見る。
「ああ、それは俺も知りたい。つか、俺のこと知ってる奴の話だと、もっと別の……、氷の息とか使えるみたいでな……」
「兄上、前に伝承を記した絵本に竜の神様が居られましたが、もしかしてこの方はその幼態かもしれませんよ?」
控えめにデールが口をはさむと、三人の反応は様々。
リョカは光の玉の一件を思い出し、「そういえば……」。
シドレーは「やっぱ俺様偉いんだろうな」としたり顔。
ヘンリーは「トカゲが竜の神?」と半信半疑。
「ねえ、その本に光る玉について書いてなかった?」
「光る玉? そういえば伝承によると、天空にある城の原動力は竜の神様の力を封じたオーブとされていました。それのことかもしれません」
「ねえシドレー、もしかして君、本当に竜の神様の関係なの?」
力強い波動を持つ玉とそれに影響を受ける存在。その二点だけで竜の神と結びつけるのはいささか早急だが、シドレーの正体のてがかりになればと考える。
「ふむ、このバカ面がそうとは思えんがな……」
ヘンリーは立ち上がると、膝のあたりを軽く払い、リョカを見る。
「さて、もうすぐ退屈な家庭教師が来る時間だ。戻るぞ、デールよ」
「はい、兄上」
「リョカよ。今日はそうだな、もしそのトカゲについて気になるのであれば一緒に来るか? たいした書もないだろうが、暇つぶしにはなるだろう……」
「え? いいの? だってお城でしょ? 僕みたいな恰好で……」
「裏口から入れば小間使いとしか思われないだろう。ついでに十一時になったら台所からレモネードを持ってきてくれ。そうだな、お菓子はスコーンで良いぞ」
「あ、うん。わかったよ」
「よし、それでは向かうか」
ヘンリーはそう言うと、先頭を切って歩きだした。