幼年編 その六 策謀-10
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「ったく、逃げ足の早いやっちゃ……。つか、リョカ達どこや……」
逃げた男を追いかけていた二匹はリョカ達と合流すべく市場に戻ってくる。しかし、そこには影も形も無く、また何かがあった痕跡すらなかった。
「ん? 坊主たちどこ行った? 迷子か? ほんまにしょうのない奴らだ……」
ぶつくさいうシドレーだが、ガロンは地面を嗅ぎながら路地裏へと行く。
「おいどこ行くん。お前まで迷子になったら困るで……って……」
ふらふらと飛びながらついていくと、その先には緑色のブローチが落ちている。
「これは……あのガキのか?」
緑の二本線はラインハットの紋章であり、それはヘンリーのマントを肩口で止めていたものと同じものだった。
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パパスは窓の外を眺めていた。現王、チップ・ラインハルトが病に伏せたことを知らされ、助力を頼まれて来たものの、昨日から側近と名乗る者がかわるがわる顔を見せに来るだけ。せめて王の見舞いにでもと申し出るも、それも断られる。
軟禁されたというのが正直なところだろう。
――ふむ、どうしたものか……。
パパスは着慣れぬ礼服の袖をまくり、手で仰ぐ。春が遅刻してきたと思ったら夏が駆け足できたかのような最近、どうにも暑くてかなわなかった。
控えていた部屋のドアがノックされる。きいと扉が開き、兵士が一礼してから用件を述べる。
「パパス殿、王が内密の話があるとのことです。ご同行願えますか」
「うむ」
パパスは頷くと、兵士の後に続いた。
続く