やっぱすっきゃねん!VO-7
「見て分かんねえのかヨッ!」
プイッとむこうを向いてしまう。その仕草が、達也の“からかい心”さらに刺激する。おもむろに右腕を肩に置くと、
「そう云わずに教えろよ。仲良しバッテリーじゃないか」
おちょくった口ぶり。直也はバカバカしくなった。
「…アホくさ…」
「それより、教えろって」
「分かったよ、まったく……あのグリップの握り」
指差す先に目をやる達也。
「あの左手…いつものアイツは、添えるように軽く握るんだ」
「なるほど…」
確かに、今は強く握っている。
「すげえじゃないか!直也くんッ」
「うるせえよ…」
辟易といった表情の直也。
「だったら教えてやれよ」
もはや、意見にも耳を傾けようとしない。
(相変わらず、意固地な野郎だ…)
達也は、肩に置いた腕を一気に絞りあげる。ヒジが完全に直也の喉を捉えていた。
「ぐッ!…な…なにを…」
突然の不意討ちに、直也は何も出来ない。
「ここで佳代が打って先制してみろ。アイツだって、波に乗るだろう」
締め付けが緩んだ。直也は、喉をおさえて激しく咳き込む。
「…この…バカ力が…」
「いいから云ってやれって……ほらッ!2ストライクだぞ」
「えっ?」
振り返る直也。見れば、空振りしているようだ。
「アイツ。打席を外す余裕も無いのか…」
佳代は、打席の中で焦っていた。
(何で…?いつもなら、打てるのに)
ヒットの有無はともかく、“打てるボール”を当てることも出来ない事に対して。
(何とか打って、勢いつけないと)
乱れた心のまま、再び構え直そうとする。
と、その瞬間だ。
「カヨォーーッ!力抜けッ。握りが違うぞ!」
歓声に混じり、一際、大きな声が聞こえてきた。
「タイムッ!」
主審が試合を止めた。
すぐに、青葉中ベンチに駆け寄ってくるではないか。
「今、暴言を吐いたのは君かッ!?」
厳しい口調が直也に飛んだ。
その手には、丸めたノートが握られていた。