やっぱすっきゃねん!VO-6
右腕を振り抜いた。
ボールは、やや遅れてふわりと浮いた──カーブだ。
狙いは一ノ瀬の膝元。キャッチャーは、バッターに被さるほど内に構えた。
(空振りだ…)
一ノ瀬はバットを振り抜く。感触を伴わないハズだった。
が、
“ゴンッ!”という音と共に、わずかな感触が掌に伝わった。
「アッ!」
打球は、ホームプレートを叩きつけて高くに舞った。
一ノ瀬は、大慌てで1塁へとスパイクを蹴る。
ボールがなかなか落ちてこない。キャッチャーは焦れったさを我慢出来ずに、ジャンプして右手を伸ばした。
「ハッ!ハッ!ハッ!」
懸命な一ノ瀬。舞ったボールに脇目も振らずに駆けていく。
ボールを掴んだキャッチャーは、目だけでファーストを追った。が、しかし。アウトに出来ないタイミングだった。
「ヨシッ!先頭が出たッ」
1塁側ベンチが騒ぐ。ほころびのをきっかけとして、流れを手繰り寄せようとする。
「ナイス!一ノ瀬ッ」
仲間逹の声を浴びて、一ノ瀬は苦笑いを浮かべた。
(何にしても出塁出来た。後は…)
6番森尾は、早くもバントの構え。ネクスト・サークルで片膝をつく佳代の顔が、思わず強張った。
(先制すれば、相手にプレッシャーを与えられる…)
森尾は、すんなりと送りバントを決めた。
一ノ瀬を2塁に置いて、佳代は打席に入った。
「はァーーッ!」
強く息を吐いて構える。いつもの狭いスタンス。なのに、その異様さを気づいた者がいた。
「…アイツ、力みまくってる」
直也だった。
控えに甘んじながらも、戦況が気になって仕方がないのだろう。試合開始からずっと、ベンチのフェンスに両手をついて目を凝らしていた。
そんな様子が達也には可笑しく映る。つい、からかってやりたくなった。
「力んでんのか?」
「ああ。あのグリップの…!」
驚く直也。むこうに居たハズの達也が、いつの間にか傍で自分を除き込んでいる。
「何やってんだよ!?気持ち悪いなッ」
「何で佳代が力んでんだ?」
見透かすような眼。直也にとって、一番苦手なヤツだ。