やっぱすっきゃねん!VO-20
佳代が加奈と共に、直也を送って行ってしばらく経った頃、玄関のドア・フォンが忙しく鳴った。
「…もう、帰って来たのかよ?」
リビングでテレビを見ていた修は、慌てて玄関ドアを開けた。
「やけに…!」
だが、玄関外にいたのは佳代たちでは無かった。
「修。姉ちゃんは、佳代はいるか?」
現れたのは、一哉だった。
「コーチ…どうして?」
「夜分にすまない。ただ、どうしても今日中に会いたいんだ」
そう玄関口でやり合っていると、外から近づくクルマのライトが、修には見えた。
「ちょうど帰ったみたいですよ」
数分後。佳代の姿が玄関に現れた。
「藤野コーチッ!」
驚きの表情の佳代に、一哉は近寄る。
「佳代ッ、これで冷やしてみろ」
一哉は、握っていた袋を差し出す。
「藤野さん。これ、なんです?」
遅れて現れた加奈が、中身を訊いた。
「馬肉です…」
「ば、馬肉って…」
唖然とする娘に、加奈は微笑むと、
「今のアンタには、最高の治療薬よ」
そう云って一哉の顔を見た。どうやら、彼女は知ってるらしい。
一哉も頷いた。
「昔はな。“さくら肉”と称して、捻挫や肉離れの治療に使われたんだ。
今でも、トップ・アスリートは治療に用いる。湿布やアイシングより効果があるんだ」
手渡された袋は、ずっしりと重かった。
「とりあえず3日分だ。4時間ごとに貼り替えろ」
一哉は、必要事項だけを伝えて帰って行った。
佳代は、しばらく帰った方向を眺めていたが、
「…わたしは、幸せ者だ…」
三度目の涙。加奈はただ、肩を抱いていた。
「やっぱすっきゃねん!」VO完