投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 441 やっぱすっきゃねん! 443 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VO-2

「どうしたんだ?」

 戻って来た2人に永井が訊ねると、

「それがコイツ、“やっと自分のボールが投げれた”って泣き出したんです」

 達也は、口許をミットで隠して状況を伝えた──笑っていることを悟られないように。

「まったく…佳代らしいな」

 呆れ顔の永井。

「監督。主審には怪我の治療って事にしてもらえますか?」
「…分かった。怪我だな」

 永井は、すぐに直也を呼び寄せて口頭で事情を伝えると、伝令に向かわせた。

「葛城さん。すいませんが、佳代についててもらえますか?」
「分かりましたッ」

 葛城は、佳代と一緒に裏の準備室へと向かった。

 そんなイレギュラーともいえる状況に、1塁側スタンドからざわめきが起こる。

「佳代ちゃん、どうしたのかしら?泣いてたみたいだけど」
「ベンチに下がったから、どっか痛めのかな?」

 有理と尚美の仲良し応援団も、突然の事態が気になって仕方がない。

 そしてもうひとり。

「姉ちゃん…」

 弟の修も、ただならぬ思いで行く末を見守っていた。

「どう?少しは落ち着いた」
「すいません…」

 ベンチ裏にある準備室。普段は、選手逹が素振り等を行う場所なのだが、今は佳代と葛城の2人しか居ない。

「…初球投げたら…なんか、今までの事を思い出して…」

 佳代は、溢れてくる涙を何度も何度も拭いながら、たどたどしい言葉で答えた。

「あれから3週間。皆んなが、あなたの復調を待ってたのよ」

 優しい、激励の声。

「なんか…出る度に打たれて…何にも出来なくて…」
「そうじゃないわ。あなたが苦しみ、もがいてたのを皆んなも知ってるわ」

 葛城は、佳代の肩に手を置いた。

「さっ、落ち着いたら涙を拭いて。皆んながあなたを待ってるわ」
「はい」

 佳代は大袈裟にタオルで顔を拭うと、立ち上がって深呼吸を繰り返す。

「どう?いける」
「はいッ。いきます」

 その目を見て、葛城は安心した。闘う者の眼になっていた。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 441 やっぱすっきゃねん! 443 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前